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旅とは何だろうか。見知らぬ土地に行くこと、普段と違うことを行うこと、非日常に生きること。移動すること。出会うこと、別れること。違う土地のものを食べること、人から聞いたり、本やテレビや授業で学んだことに実際に触れること。それは宗教や人生観やその土地の常識のような概念かもしれない、あるいはデスクトップやポストカードでよく見る景色かもしれない。自分の把握できる範囲から飛び出すこと。驚きを探しに行くこと。心を揺らすこと、自分の心地よい安全圏から抜け出し、汚さや危険に耐えること。強い不安の中、無我夢中で言葉も通じない他人に助けを求め、信じられないほどによくしてもらい、また、別の時には期待を裏切られ、予想外の金額を支払い、盗まれ、しかし案外平気に乗り越えている自分を再発見すること。生活をすれば、諍いが起きる。変えざるを得ない自分の習慣や価値観に、恥と悔しさを覚える。しかし受け入れてみるとさらに楽しくなり、人を心から愛するようになり、同時に人を無条件に信頼しないようになり、自分自身の強さを思い出すこと。

旅に出る動機は何だろうか。辛い思いをする為に出かけるのではあるまい。刺激や冒険を求めているのは明白である。またはドラマのような出会いや感動を期待して、劇的に変わる自分の人生を思い描いているのかもしれない。今までの私の旅は、帰る場所がある前提であった。だからいつも、旅の前には現実がある。生活があり、日常がある。やらなければいけない事に縛られて、息苦しい人間関係に埋もれ、逃げたいと思っている。この人生を、休みたい。何か区切りをつけたい。全てを忘れたい。この機会を逃したくない。出発には、覚悟と勇気と思い切りと、今背負っているものを一時とはいえ捨てるという無鉄砲さや無責任さが伴っている。旅立ちは喜びと楽しさを追い求める人の子供らしい遊びを極めることであると同時に、知らないうちに縛り付けられた自分を解放して逃げることへの背徳もあり、それを忘れ、人は旅の先で遂に自由の味を覚えるのである。


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