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川端康成「眠れる美女」 現実の隙間に生の指をこじいれていく荒々しさ。息苦しくもスリリングなエロスの淀み。

もうこの世にない人がいいのです

なぜなら
誰をも裏切らないから
誰のものでもないから
決して手にすることはないから
ずっと美しいままだから

うつつのものでなければ
手に入れようともがくこともないし
成就のむなしさを予感することもないし
裏切って苦しめることもないし
知りたくないことを知って憎むこともありません


『眠れる美女』 川端康成/新潮文庫

うつつの切り裂き魔・カワバタが見せる地獄の所有欲がどこまでも続きます。

手に入れた瞬間に失うもの。
それこそが手にしたいものなのに。

欲望のもつ快感は、達成時ではなく掻き立てられている最中にこそあるなら、永遠に手が届かないのに接近をやめようとしないのも道理。

台詞語りで始まる冒頭は、現実の隙間にいきなり生の指をこじいれ、切り裂いていくような荒々しさ。

息苦しくもスリリングなエロスの淀みが全編を覆いつくす。


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