スーパーシューター
「2014年11月、南海本線の泉大津駅にて16時頃、走行していた空港急行なんば行きが駅に差し掛かろうとした時、ホームにいた女性が奇声を発しながら線路へ飛び込んだ。だが不思議なことに、女性の遺体はおろか、血痕や電車への衝突跡も何一つなかった。この話知ってる?」
『知らないかもです!』
「駅員は"たしかに飛び込むのを見た"と言い、運転士は"目の前に人が現れ、そして消えた"と証言している。つまり確実に存在し、線路へ飛び込んだはずの女性が、忽然と姿を消したんだ。舞ちゃん、このパターンで何か思い浮かぶことはある?」
『GANTZじゃないですか!』
「そう。この件はまたたく間に拡散され、飛び込んだ女性は黒い球の部屋へ転送された、GANTZ事件だとかなり話題になったんだ」
『やっぱりそういう説明つかないことはこの世には多々あるんですよ』
「でもこの事件には真相がある。運転士は女性が飛び降りるのを見て急ブレーキをかけた。それによって電車は本来の停止線より15m手前で急停車したんだ。これによって衝突は回避された。とうの女性は自分からホームへと上がり、改札から逃げるように出ていったという。つまり、女性は消えてなんかいなかったんだ。」
『なんだー。結構ワクワクしたのに』
「舞ちゃん、はっきり言うよ。この世に霊能力なんかない。陰謀も超常現象も無ければ、説明がつかない…なんてことすらないんだよ。全ては大きな不安と、小さな偶然の積み重ねだ。呪いも伝承も、全部そんなものだよ」
◯
実家を整理したところ小さな金の指輪が出てきたので、自分が使うこともないので売りに出したところ3万円の値がついた。
思わぬ臨時収入を得た私は、泡銭はすぐに使い果たすタイプなので、滅多に行かない場所のメンズエステに行くことにした。
口コミを読むと45過ぎの熟女が出てきて、それはそれはどエロい施術をしてくれるとあり私のテンションは上がりきっていたのだが、いざ対面となると現れたセラピストは若いギャルだった。
今日は完全に熟女の気分だったのに…
『服を脱いでシャワーを浴びてください』と言うので指示に従ったところ、この舞というギャルセラピストは一向に退出しない。
「あの、パンツ脱ぐんだけど…」と言うと『あ、私全然大丈夫なんでー』とヘラヘラと笑ってくる。
人によるかもしれないが、私はプレイ前のシャワーの時に下半身を見られたくないので、これだけでも嫌で仕方なかった。
シャワーを終え施術を始めてもらうと、舞ちゃんは私の足を触り、『もしかして霊感ありますか?』と尋ねた。
「…いや」と答えると『私、そういうのわかるんです。さっきシャワー浴びてすぐなのにこの肌の冷たさは霊感体質、あるいは霊に憑かれやすい体質です。心当たりありますか?』と言った。
たしかに私は童貞喪失前までは多少霊感があり、代々霊感体質だと聞いてきたし、見えはしないが存在は所謂霊痛で感知できていた。
だが別にそれは珍しいことではないし、ぶっちゃけ霊感をいじられるのは面倒くさいし、ぶっちゃけぶっちゃけこのセラピストにそれを言うとめちゃくちゃ面倒臭そうなのが目に見えていたので、そのあたりは伝えなかった。
『怪談とか好きですか?』
「友達と付き合いで何度かスリラーナイトへ行ったことがある程度でしたら」
『それなら私の怪談、きいてもらっていいですか?』
そう言うと彼女はこちらの了承なしに『あれは…私が小学生の頃なんですが…』と語り出した。私の鼠蹊部を撫でながら。
いやよく竿を触りながらそんなん喋れるな…
しかもその怪談の内容はしょうもなかった。
私が昔住んでいた団地は私の家を含めてどの世帯もみんな離婚した、とか、ある日望遠鏡を覗いていたら遠くからこちらに手を振りながら走ってくる少年を見た、とか本当にしょーもない話やどこかで聞いたことのある話ばかりだった。
『どう思います?その現象』
「いやー…偶然なんじゃない?」
『でもそんな偶然続きますか?』
「たとえばほら、風水的によくない方角とか」
『風水ってそんな当たります?』
「わかんない。ドラゴンズドリームくらいしか風水知らないから」
『なんですか?ドラゴンズドリームて』
「ジョジョのスタンド」
『あ、すみません。私ジョジョ苦手なんで』
なんなんこいつ…
一方的に話すくせにこっちの会話シャットアウトすんなよ…
しかも鼠蹊部ゴシゴシしながら。
もう怪談はいいから早くエロい空気出してくれよ…
『この間はね、金縛りにあったんですけど、なんか霊に負けっぱなしなのが嫌で。だから思い切り〇すぞ!って叫んだんですよ。でも冷静に考えたらもう死んでるんですよねw』
何その小噺・・・。
私はこういう犯罪めいた言葉を吐く女がめちゃくちゃ嫌いだ。
よってほとほと疲れ果ててしまった。
〇
『あっという間に時間が過ぎちゃいましたね』
「そうだね・・・」
結局私はこの日、どれだけ股間を触られようがエレクトすることはなかった。
『いつもはどの辺で遊んでますか?』
「いや、あんまり外出ないから」
『あの、私、実はそんなに友達いなくて』
彼女は唐突にそう言ってきたが、私には、あー、だろうね・・・としか感想がなかった。
しかしそのあとの彼女の言葉は完全に予想外のものだった。
『ライン交換してくれませんか。よかったら友達として飲みに行きたいです』
「ええ!いいの?」
『すっごい楽しかったって言ったじゃないですか』
こうしてなんとライン交換に至り、友人となることができたのだ。
今までメンズエステで抜き、あるいは本番の経験こそあれど、こうして友達ができるのは初めてのことだ。
『今度歌舞伎町でも行きませんか?私もスリラーナイト行ってみたいです』
「ぜひだね。おごるよ」
もう勃つとか勃たないとかなんてどうだっていい。
これはデカい。
デカいってのもまたこの日記だと紛らわしいけども。デカい。
私は一気に有頂天になりながら部屋を出ようとした。
すると彼女が『最後にひとつだけいいですか?』ときいてきた。
『スリラーナイトのトイレってなんか怖い演出されてるんですよね?』
「あー、なんか怖いモニュメントとか置かれてるよ」
『怖い日本人形みました?』
「見たよ多分。なんかやた怖い顔した日本人形でしょ?」
『ちなみになんですけど、あのお店、トイレに日本人形、置いてないんだそうです』
いや怖っ!!
最後に何かましてくれてんねん。怖っ!!
この世に霊は存在するのでしょうか。
その答えは未だに明確ではありません。
そして確かに、霊が存在するという証拠は何ひとつありません。
ですが、存在しないという証拠もまた、何ひとつ無いのです。
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