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ホス狂いから介護職へ

『おばあちゃんが可愛い。なんかね?感謝されるのが嬉しいの。』


年の瀬も押し迫り、ゆっくり過ごしたいのは
やまやまだが、おじいちゃんおばあちゃん
たちは待ってはくれない。

ー否、待たしてはいけない。

歌舞伎町のイケメンホスト2名に
顔がニヤけていたあの子は
今、利用者2名に顔を綻ばしていた。


『頼られるってなんか嬉しいね。
私は今まで頼るほうだったからさ。』


ウチに遊びに来ては推しのホストの
TikTokやYouTubeチャンネルを
よくもまぁ飽きもせずみていたものだが

今では若き介護職が主人公のドラマを
Netflixで観ている。

 
『もうホスト行かない。あなたといるほうが楽しい。ごはん作ってくれるし。売り掛けも払わなくていいよね。』

色々とツッコミどころ満載だが
Instagramを通じてホストに歌舞伎町に誘われ
ホイホイ着いていった彼女に
もはや細かいことを言う気はない。


彼女はひたすら悩む。
靴下を片方履いたかと思えば
動きを止め、苦悶の表情を浮かべて
自らの思考へと深く落ちていく。


僅かな疑問や不安、自身への否定意見、
何が正しくて何が悪いか。  


ふとしたときに流れ込んでくるらしい。


周りに振り回され、利用されやすく
人の顔を伺いながら生きて
疲れて爆発するしかなかった彼女は
誰かが守らなければならない。


『介助の方法もいろいろあるんだね~。』

『この方法先輩に教えられたんだけど
利用者さん痛くないのかなぁ?』

『あ~仕事行きたくない。人間関係わかんないから気まずい。』


『メモ帳忘れたからクビかなぁ?』


その都度(大丈夫)と私は言う。
ただ、(大丈夫)というのではなく
(なぜ大丈夫なのか)を解説、説明をする。

でなければ彼女のなかで膨らむ
不安の風船は破れないからだ。

(大丈夫)というだけでは
不安の風船は少し萎むだけだ。


『あ、そうゆうこと?なぁんだ。先輩もさぁ
そう言ってくれたら良いのに。イジワル。』


職場での出来事を話し
自分は間違っているかいないかを
私に確認する。

そんな日々が5年以上続いている。


学習して、同じミスをしないということは
多少できるようになってきたが
(逃げ癖)は治らない。


『どうせさ、私だから言うんだよ』
『みんな私のことバカにしてる』
『もう辞める。私居なくても回るし。』


そんなとき、彼女の怒りのスイッチを入れる。


「君のことなんか気にするほど皆暇じゃない」
「何かあれば君に直接いうだろ」
「探してきた仕事やめるくらいなら
始めからやるなよ」


ちょっと辛辣な言い方にはなってしまうが

ネガティヴになっているこの人を
(怒り)の感情で
ポジティブにさせるにはこれが手っ取り早い。

(たぶんこの子はドM)


言いたい放題言わせる。
その間、私には色んなカタチの言葉が
飛んできて
私のココロをかすめたり、時にはクリーンヒット
させたり、TKO寸前の会心の一撃を喰らわせる。


言葉は刃だ。両刃の剣。
使い方を間違えれば相手を傷付け
優しさや愛情にあふれたものは相手を癒す。


ホス狂いになる女性たちも
ホストの言葉に癒されたり、傷付いたり。

ホストは女性をたぶらかすプロなので
優しい言葉を女性が弱っているタイミングで
甘く囁やきかける。

「私がいないとこの人も私も」


半ば(共依存)のような心理状態に持ち込み
疑似恋愛の世界へと引きずり込む。



朝の寒さが厳しい。
エアコンをつけて朝ご飯の準備をする。


お手製金柑のジャムによく焼いたトースト。
熱い玄米茶。


『ありがとねたくさん話しきいてくれて。
今日も頑張ってくる。また一緒にごはん食べようね。』


玄関の扉を開けると
澄んだ青空が広かっていた。

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