見出し画像

わからないはわからないまま受け入れる、クラムボンとクラムボン(原田郁子)「銀河」のこと

 秋が深まるとなぜか宮沢賢治の「やまなし」が読みたくなる。
 誰も知らない山深い清流の底、二疋の子蟹が会話している。その春編と冬編二つの青い幻燈の話。クラムボンが登場するのは春編だけど…。

二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話していました。
「クラムボンはわらったよ。」
「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」
「クラムボンは跳ねてわらったよ。」
「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」

「銀河鉄道の夜」宮沢賢治 「やまなし」集英社文庫

 青い水の底、赤い子蟹、光、「かぷかぷ」映像的で音が響く、楽しい描写と時間が続くかと思いきや、しばらくすると…。

つうと銀いろの腹をひるがえして、一疋の魚が頭の上を過ぎて行きました。
「クラムボンは死んだよ。」
「クラムボンは殺されたよ。」
「クラムボンは死んでしまったよ‥‥‥。」
「殺されたよ。」
「それならなぜ殺された。」

出典:「銀河鉄道の夜」宮沢賢治 「やまなし」集英社文庫

 何が起きたのか?サスペンスか?ミステリーか?と期待していると…。

魚がまたツウと戻って下流の方へ行きました。
「クラムボンはわらったよ。」
「わらった。」

出典:「銀河鉄道の夜」宮沢賢治 「やまなし」集英社文庫

「クラムボンはわらったよ。」あっさり最初に戻る。意味がわからない。
「クラムボン」という生き物がわらったり、死んだり、殺されたり、また、わらったり、そもそも生命体なのか?無生物なのか?架空の生き物なのか?幻影なのか?なんなのかわけがわからない。
 そのシュールな展開がいい。現実とか、リアリティとか、ほっといて不条理な世界不条理なまま、わからないはわからないまま受け入れる
 宮沢賢治の童話の中のわからないけど、見えないけどいる、その雰囲気空気感が好きだ。
「となりのトトロ」も「トトロ」が見えない前半の自然の生きた雰囲気や神秘的な空気感が好きだ。わからないモノをわからないまま感じる。
「目に見えないわからない様々なモノが、存在している世界がわかる」
それでいい。
 その点、この集英社文庫「銀河鉄道の夜」「やまなし」クラムボン意味不明をそのまま楽しむ注釈がいい。

クラムボン 意味不明。いろいろな説があるが、ここでは蟹の子供たちの繰り返しの遊びの雰囲気に合っている言葉として読み、味わい、想像すればたのしい。

出典:「銀河鉄道の夜」宮沢賢治 「やまなし」誤注 小田切 進編

 わけがわからないけど、わからないままで魅了されるバンドといえばスピッツ。スピッツも大好きでいつか書きたいと思っているが、今回はそのままバンド名がクラムボン「シカゴ」も良くわからないけど楽しい。
 さすがにクラムボンと名付けるバンドだけあって、宮沢賢治の童話の登場人物?生き物?恋愛感情?のようなわからないが、楽しい、面白いを楽曲で表現したような曲。 

何にも言えないよ
そんなつもりじゃないの
デタラメしゃべりだすわ
みるみるふくれる
まっくろなアイツと
みるみるしぼむ
まっしろなアイツを
飼っていたんだ夢の中だけは
たまに会うんだ夢の中にいれば

引用:クラムボン「シカゴ」歌詞 作詞・原田郁子 作曲・ミト

  宮沢賢治の世界に近いと思う原田郁子の曲「銀河」も好きだ。
こちらの作曲はあの忌野清志郎。下の動画は、短いバージョンで「教会」~「銀河」だけど、夕暮れでシルエットだけのこの空間と時間と原田郁子の演奏が素晴らしい。

 こちらは十三分あるロングバージョンコーラス&ブールスハープ&アコーステックギターで晩年の忌野清志郎が参加している。
 歌声が切なく、深く、一人で聞いていると泣いてしまう曲。

そっと そっと 手をつないで
どこまでも どこまでも もぐってみよう
だれもこないから 安心して
きみのなかに ある 宇宙をみせて
ぼくらは 銀河の星つぶだよ 遥かな 銀河の 星つぶだよ 
「わからない」という名の 銀河を 泳いで 渡る 星つぶだよ
ああ ああぁ
ちいさな部屋で つぶやいたことが
空に 空に 響いてゆけば
みたこともない ヘンテコ模様の
魚や 鳥や は虫類が ほら 静かに 祝福している
ぼくらは 銀河の旅人だよ 遥か 昔からの 旅人だよ
「わからない」という名の 銀河を 泳いで 渡る 旅人だよ

引用:「銀河」作詞・原田郁子 作曲・忌野清志郎

  やはり今もどこかでクラムボンと言う見えない生き物が「わらって」「死んで」「殺されて」「わらって」いる気がする。それでも自分にできること、与えられた命を精一杯「わからない」中で「楽しみながら生きる」しかできないと思う。

この記事が参加している募集

思い出の曲

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?