吉浦利博

フリーディレクター、映画や日々の出来事で大事、面白いと思った事、学んだ事をゆるく書いて…

吉浦利博

フリーディレクター、映画や日々の出来事で大事、面白いと思った事、学んだ事をゆるく書いています。映画「とめ子の明日なき暴走」など。専門学校で30年以上、映画の事を教えています。

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  • 映画、監督、俳優からの学び

    映画に興味ある人に、交流のあった監督や好きな映画から学んだ事を書いています。

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    季節を感じる事や記憶に残る人や映画に関する小さな物語「面白い」「大事」と思った事を書いています。

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琉球の深い知恵、映画「ウンタマギルー」が教えてくれた7つの事

はじめに、なぜ今「ウンタマギルー」(1989)なのか?  「ウンタマギルー」(1989)は今見ると泡盛の古酒のように年を経るほど味わい深く、考えさせられる事が多い。  高嶺映画の芯となる「オキナワン チルダイ(沖縄の聖なるけだるさ)」の時間の流れやそこから生まれた文化(神話・伝承・琉歌・民謡・踊りなど)や生活は、沖縄特有のモノに違いないが、どの国にもどの民族にもあるモノのように思う。  あらゆる生き物や植物は、その土地の時間の流れ、季節の流れの中で独自に生きている。場所が変

    • 宮沢賢治と宮崎駿から学ぶ日本の基層文化の再生

      1.トトロと山猫、森の神や精霊の世界  宮崎駿が絵本「どんぐりと山猫」を読んで、山猫が小さかったことが気に入らず、自分なりの山猫のイメージ、大きさは2メートル以上でボーッと立っていて、足下でどんぐりたちがキイキイ言っている。その強烈なイメージからトトロは生まれたという。  トトロ美術館の看板には、トトロの原型になったヤマネコの看板が掲げられている。  宮沢賢治の「どんぐりと山猫」の山猫は、どんぐりたちの見た目の争いに困り果てている裁判官として現れる。森の中の争いや秩序を

      • 矛盾の芸術:宮沢賢治と宮崎駿に学ぶ「今を生きる姿勢」

        1.宮沢賢治:災害と社会の矛盾の中で成長  宮沢賢治と宮崎駿が子供の頃生きた時代と震災や津波、異常気象、パンデミック、戦争が続く今の時代とが重なるように思える。  昔から親しんできた二人の作品が、今になってリアルに感じ、現代と照らし合わせて今一度、彼らの表現の背景を考えたみた。 宮沢賢治の生きた時代は、冷害による凶作、日露戦争、第一次世界大戦、関東大震災の、明治から大正1933(昭和8)年までの時代。   宮沢賢治は、1896(明治29)年、三陸大津波、陸羽大地震、赤

        • 格差社会での多様性、ピンクの眼鏡のYさんと競艇の食堂のおばさんの事

          1.格差社会での多様性  自由と豊かさをもたらすはずの多様性という言葉、私はなぜか束縛と不自由さを日々感じる。多様性社会の前に格差社会が強くあり、その中での「多様性の要求」が、どこか息苦しくしているように感じる。  格差社会のピラミッド構造の中で、下の者は上へ登る事で、上の者は下へ落ちない事で精一杯。人と深く関わる余裕もない。  多様性という言葉で都合よく「人は人、自分は自分」と割り切る。 人をきちんと見て、想像力を働かせ、丁寧に接する事をしなくなる。  「多様性」という

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          宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」に学ぶ、想像力を引き出す表現(後半)

          1.観察し描写し、想像させ、裏切る、深く豊かな人物描写  宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」に学ぶ、想像力を引き出す表現の後半。前回は、かねた一郎の所に、山猫からめんどうな裁判のハガキが来て、翌朝出かけ、栗の木、笛吹きの滝、きのこ、りすに山猫の行方を尋ねて歩き、黄金いろの草地で、馬車別当に出会うまでを解説した。  私は前半部の宮沢賢治が映画監督のように映像を見せる手腕に驚いた。  家から出たかねた一郎、ロングショットの広大な山から、栗の木、落ちる栗の実へとアップショットへ。

          宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」に学ぶ、想像力を引き出す表現(後半)

          宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」に学ぶ、想像力を引き出す表現(前半)

           宮沢賢治の童話に学ぶ、想像力を引き出す表現を「どんぐりと山猫」を通して考えてみた。長くなったので、今回は前半だけです。 1.どうすれば、自分の想像力を使う読者・観客になれるのか?  ネガティブな感情を生む空想からわくわくどきどきの想像力に変換する。  「どんぐりと山猫」はシンプルな物語。  いきなり山ねこから、めんどうな裁判へのおかしなはがきが届く。  状況設定もわからず、奇妙なはがきで、読者を強引に引っ張っていく。 これは「注文の多い料理店」も同じ、何が起こってい

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          ゆったりとした気持ちになる「カムイユカㇻ」の魅力

          映画「カムイのうた」、アイヌ文化と「カムイユカㇻ」  映画「カムイのうた」は、文字を持たないアイヌの口承文学である叙事詩「ユカㇻ」をローマ字と日本語訳で表現した知里幸惠さんの19年の生涯を描いたもの。  印象に残ったのは、想像以上のアイヌの人々への過酷な差別と偏見。 そのやり切れない感情を、竹の板と紐の振動で表現するムックリの不思議な音色。  夜の森から見つめるシマフクロウの神秘的な眼差し、風がやみ、雪や太陽の光で輝くキタキツネやタンチョウの美しさ。  中でも強く残ったの

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          雪の夜行列車と祖父の言葉と布袋さん

           各駅停車の夜行列車には、人はまばらだった。車窓は、足下からの蒸気暖房で白く曇っていた。指でこすると、キュキュと物悲しい音がした。  窓の外は真っ暗だった。真っ暗の中、小さな生き物のように無数の雪片が舞っていた。  1983年、冬、祖父が倒れ入院した。私が夏、帰省した際には、祖父の喉から遠い海鳴りの音が聞こえていた。  祖父は、左官屋の棟梁だった。大阪で仕事をして、芸者をしていた祖母と結婚した。戦争が始まり、二人は子供を連れ満州に渡り、終戦後は、田舎に戻り、祖父は知り合いの

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          「アバウト・タイム」日常的タイムトラベル、トライアル&エラーのすすめ

          ①「今日が人生最後の一日だったら何をする?」の答えを探す「タイムトラベル」  「アバウトタイム」は、父親から代々受け継いだ「タイムトラベル」の能力を、21歳のティム(ドーナル・グリーソン)が使って、自分の恋愛の失敗や友人や家族の不幸な出来事を消そうと奮闘するラブコメディ。リチャード・カーティスの監督としての最後の作品。  リチャード・カーティスは、インタビューの中で、この映画は「今日が人生最後の一日だったら何をする?」という友人との会話から生まれたと話していた。  「タイ

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          「PERFECT DAYS」人を幸せにする持続可能なモノ作りの3つのヒント

          「PERFECT DAYS」は、シンプルに楽しい至福の映画体験だった。  長年ヴィム・ヴェンダースの映画を観てきたが、これほどわかりやすく心に響いた映画はなかった。  私はこの映画からストレス社会から抜け出し、人を幸せにする持続可能なモノ作りの姿勢や楽しさを改めて教えられた。 ①日常の観察から生まれる心の安定と優しいまなざしを持つ事  「PERFECT DAYS」はトイレ清掃作業員の日常が繰り返し描かれる。 主人公平山の日々の観察から生まれる心の安定と優しいまなざし。その

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          M1さや香の「見せ算」、数字の気持ちを想像する深くて面白い漫才

           M1決勝ネタのさや香の「見せ算」の事はいろいろ書かれている。あのネタを聞いて以降、「数字の気持ち」を想像してしまう。  まず「見せ算」の説明を、さや香の漫才から引用する。  「だからなんなん」石井さんの突っ込みは正しい。同感です。  なのに数字の気持ちを想像するようになってしまった。  私の住んでいるマンションの部屋番号には4も9もない。4見せ9はどんな気持ち?4と9は日本人の勝手な死と苦のイメージを押し付けられ、あらゆる場所で、その存在を無視され、無き数字にされている。

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          消えた映画館、おばあさんとストーブと源さんの事

          1980年代大学生の時、大阪の吹田映劇という映画館で映写技師のアルバイトをしていた。飄々としてお洒落でユーモアのある支配人が好きだった。  不思議な映画館で、普段は主に洋画のピンク映画を上映しているが、毎月、何日かは映画サークルに貸して主にヨーロッパのアート系映画を上映していた。  忘れられないのはオールナイトのルキノ・ヴィスコンティ特集「ベニスに死す」「ルードウィヒ 神々の欲望」「家族の肖像」等。その日だけ、普段来るはずのないおしゃれで美しい女性がつめかけた。私も観客と

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          岡本喜八監督『ネガからポジへ』痛烈な喜劇「肉弾」

          1.ネガからポジへ  「ゴジラー1.0」を見て、昔の戦争映画が見たくなった。それで岡本喜八監督の「肉弾」を見た。  岡本監督の映画が好きだ。「大誘拐」「ジャズ大名」「近頃なぜかチャールストン」「ブルークリスマス」「沖縄決戦」「肉弾」「独立愚連隊」  リズムとテンポとユーモアがあって、楽しみながら見てしまう。観た後に痛烈なメッセージが届き、それについて考えこんでしまう。  岡本喜八監督のエッセイ集「マジメとフマジメの間」も読み返してみた。 「ネガからポジ」への発想の転換が好き

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          「82年生まれ、キム・ジヨン」顔のない小説と顔を持った行動の映画

          1.顔のない小説、誰もが感じる危機感と喪失感  私は、好きな小説の場合、映画化は観たくない。映画化された作品を観てしまうと、読んで想像したイメージが、映画化されたイメージに上書きされて消えてしまう。これが困る。  本を読み返す度に、映画の演者たちの顔が浮かぶ。困る。「困る」なら観なければ良いのだが…。ときどき原作では良くわからなかった事が、ぱっと目の前に広がる事がある。  で、原作「82年生まれ、キム・ジヨン」は、特定の顔を限定できない小説だった。自分の事として自覚する小

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          ビートルズのユーモアと宇宙の核の事、LOVE PSYCHEDELICO「Help!」と新曲

           NHK The Covers「ザ・ビートルズナイト!」は楽しい番組だった。  いろいろなミュージシャンたちのビートルズのカバーだが、特に自分達なりにアレンジされた曲が印象に残った。  ラテン系にアレンジされた「アイ・ウィル」井上陽水や、自分流の日本語訳で歌う斉藤和義「ジェラスガイ」は「焼きもち焼きの男がいるよ~♪….、小っちゃい奴さ~」と口笛を吹き歌われるだけでジョン・レノンが急に身近になり自分自身のように感じた。 1.「人にものを伝える時はユーモアが大切」オノ・ヨーコの

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          「フィルムなつかしい」と言う学生達と繋がり表現の豊かさを持つ事

          1.16ミリフィルム映画を「なつかしい」と言う学生たち  学生映画のある場面の撮影に使うために、16ミリフィルムの映写機を久しぶりに回した。映写機にかけたのは、20年以上昔の、10分ほどの学校を舞台にした短編映画だった。  デジタルネイティブで、4Kのクリアな映像にこだわるZ世代の彼らが、なぜか映像を見て「なつかしい」と言い始めた。  教室の別の場所では、別の班が別の映画製作の話し合いをしていたので 「ごめんね、映写機うるさいけど」と私が言うと 「大丈夫です。映写機の音、

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