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アマチュアの創作速度、あるいは時世の反映とか

 アマチュアの創作は勢いが全てだ。
 そうでもしないと途中でぽきんと折れて、永遠に完成することはない。
 そして勢いに任せた故に、時世の反映も早い。

 私がこれを感じたのは2020年の秋。文学フリマの会場で同人誌を売っていたときのこと。
 この日の私は初めて作ったアンソロジー、短編集、エッセイ集を携えて会場へ向かった。
 結局ほとんど頒布できなかったり、前日にしこたま酒を飲んだせいで頭にドのつく二日酔いだったりとエピソードには事欠かないのだが、それはまたそのうち。

 この頃はちょうどCOVID-19がやや緩和されたタイミング。
 マスクは当然、消毒液やパーテーションを各ブースでそれぞれ持ち寄るなど感染対策はどれだけ徹底しても足りないという警戒レベルの高い時代だった。
 その時勢を反映して、文学フリマ参加者の創作物は感染症に関係したものが溢れていた。

 自宅へ篭ることを余儀なくされた者たちによる呪詛
 職場へ行かなくて済むことへの歓声
 カミュの『ペスト』に影響を受けた短編……etc.
 ありとあらゆる作品が感染症絡みだった。

 かく言う私が編集したアンソロジーにも時世に影響を受けたであろう作品がいくつかあった。
 私は流行りものを創作のネタにすることを異様に嫌悪しているので書くことはなかったが。

 感染症を取り上げることの是非についてはさておき、私が感銘を受けたのはその速度。
 きっとプロの作る速度ではこれほどまでに感染症にフォーカスした作品は多くはならないだろう。
 企画や制作に時間がかかるのは当然だが、装丁や校正、宣伝など同人誌では考えられないほどの人間が一冊の本を作るのに関わっている。
 人の手を介すれば介するほど、制作に必要な時間は膨らんでいく。
 同人誌のような一人上手でも完結できるものは個人の能力とやる気次第ではあるがあっという間に完成することも少なくない。
 そして生まれたのが時世を反映した感染症に関する創作物たちだ。
 アマチュアライターたちも禍からしばらく経った今になって感染症をわざわざ取り上げて創作のテーマにすることはずいぶん減ったに違いない。

 示準化石のような感染症。
 十年後にはどうなっているのだろうか。
 文学フリマも入場料を徴収するようになるようだし、日々変わりゆく同人界隈の情勢を外から内から眺めていたい。(そ)


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