見出し画像

小料理屋の真鯛のあら煮


中野駅北口にある小料理屋に
月に1度位の割合で
下請けの社長と飲みに行きました。

入社3年目当時の私の
会社での地位は
まだ主任だったのですが
電々公社の設計の仕事は
ほとんど私に任され
図面の外注権も半数保有していました。

図面はまだ手書きの時代で
図面1枚の外注価格は
10万円にも及びます。
手書きでは月に5枚仕上げ
るのが精一杯ですが、
それでも売り上げは月に
50万円にも及びます。

当時の私の給料は、
7万円程度だったとおもいます。


皆競って小さな社長さんを
望んだ時代でした。


私の外注先は、個人事業主
3社でした。
3人共に私とほぼ同じ年代で
若き社長といったところでしょうか。


3人の社長の一人が小料理屋のファンで、私を誘ってくれたのですね。
簡単に言えば、接待してくれたということなのですが
それだけの関係ではありませんでした。

個人事業主は孤独な作業です。
ラジオやラジカセ音楽を聴きながら、セッセと図面書き。
たまに人とお喋りしたくなります。
そんな時に会社にリーンと
連絡が入ります。

「散歩さん、例のところに飲みに行きましょう。私は○時に店内で待ってますから。」

私は早速後片付けを始め
徒歩で待ち合わせ場所に到着すると、カウンターの向こうから手を振る社長の姿がみえました。
軽く一杯やっているようです。

二人の話題は世間話で、
彼は堰を切ったように喋り始めます。
ほとんど私は聞き役でした。
まあ、これも彼のストレス解消法なのでしょう。
私も美味しい料理が食べられ、酒も飲める事だし
相互で楽しめる酒宴といったところでしょうか。


たまに「真鯛のあら」が出たときに、店主から声が掛かります。

「今日は真鯛のあら煮ができるよ。」

早速注文、真鯛のあら煮は
二人の大好物です。

眼の前で調理するので、
だいたいのレシピが解ります。

何度か見物するうちに
店主にレシピを聞いてみました。
意外にも簡単に教えて下さいました。

「あらは酒で軽く洗い、酒1:味醂1:醤油1の出汁の中にあらを入れ、グラッときたら火を止め、皿に盛り付け出来上がり。簡単でしょ、あとは経験ですな。」

かなりあとのことになりますが、妻と結婚して、その店に行き、真鯛のあら煮を食べさせました。

近くのスーパーで真鯛のあらがでたので、早速調理しました。
酒のつまみには良いかもしれないが、御飯のおかずには辛すぎる、ということで、妻は
醤油を半分にして料理するようになりました。


通いたる

料亭酒場の

カウンター

教えを請うは

真鯛のあら煮



後年になり
図面はCADと呼ばれる電子製図に変わりました。
CAD は手書きと比べて効率的なので月に10枚書けます。

ところが、高速製図なので、外注単価は少なくしてよいだろう、という会社のトップの考えかたで、外注費は大幅に削減されました。
当時の価格で1枚あたり3万円。
月に10枚書いて、収入30万円。
個人事業主には、ボーナスも
有給休暇も厚生年金もありません。

高度成長期、私の給与が
当時30万円は超えていたとおもいます。

サラリーマンと個人事業主の
収入が逆転した瞬間です。

ここから、個人事業主の
地獄が始まりました。


その後、バブルの崩壊により
民間サラリーマンにも悲劇が
襲いかかってくるのですね。

そして、公務員が人気の職種になりました。

その後、IT バブルなるものが
あるらしいのですが、私には
解りかねます。


この記事が参加している募集

今日の短歌

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?