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第98回 「地域の社会的課題解決に取り組む政策づくり授業の実践」(「公共」研究チーム)

 第98回は、生徒が市役所に政策提言をした授業実践を報告していただきました。政策づくりの授業がライフワークになっていると言われていたのが印象的です。現代の子どもたちは社会的課題解決への参加意欲が低いとされる一方、学習指導要領では社会参画が求められています。そこで、生徒が社会的課題を解決する能力を身につけて政策立案過程や政策実践についての知識を得ることで、社会の問題解決への意欲とか意識を高める学習を目指してスタートしました。市町村に限定したのは、そのほうが、ゴミ問題や分煙の問題など身近でイメージしやすく、解決策を考えやすいからだそうです。意識されたのは、進学校でもそうでなくても、中学生でも実践できる汎用性のある授業、問題の背景にある原因を多角的な視点で細かく考えることで実現可能な解決策をみつける授業です。
 1つ目の実践は進学校での実践です。市の問題の原因を追求(例えば路上駐輪の原因は駅から駐輪場が遠いから?値段が高いから?)し、原因のいくつかを取り除く方法を考えます。5W1Hを意識し、改善策と改善策の効果、市の将来像も考慮して独りよがりの政策にならないようにします。教員からのフィードバック後に再考したりとバージョンアップしていく中で、生徒の社会問題を解決したいという意欲が向上し、市役所に提言したいという欲も出て、最終的に市長への提案制度を使って自分たちの考えを伝えました。提案しなかった班も自分の技能や問題解決への参加意欲が高まりました。
 2つ目は社会的課題の構造的把握を踏まえた政策立案型授業です。生徒が提案した政策の質に注目して行った実践です。良い提言は問題の横の構造化、つまり多様な利害関係者と問題のつながりを考慮しているか、それができているグループの方がよい提言ができるということです。利害関係者にインタビューしたり、授業中に電話して話を聞いたこともあるそうです。
 社会問題を考える際、問題発見力の弱い生徒はでてきますが、選挙の争点に挙がるものを紹介したり、町の風景の写真でおかしいところを議論させたり、審議会の議事録を読んで問題点を挙げたりして課題を発見させる方法も教えていただきました。 

― 質疑応答 ―
・ある社会課題に対して興味がなさそうにしていた生徒がいきなり変わる瞬間がある。点字ブロックの路上駐輪の授業後、今まで自分が見ていた街の見方がガラッと変わったり。それは外に出て街を歩いたり、人と出会ったりなどの外的要因が強いのか。それとも座学をまずしっかりこなした方がフィールドワークは効果的になるのか。
→出会いの力は大きい。生徒と関係ない選挙区の政治家に授業で話を聞く機会をつくったことがあったが、「政治が身近になった」「よくわかった」という感想が多かった。日々伝えていたつもりだったが一瞬でもってかれた感じ。順番はないが、現場を見てしっかり考える、フィールドワークも教室での取り組みも両方大事。両方できないのならそれを補う必要がある。現場なしなら終わってからでも現場に行ってみるように促したり、現場をみただけなら問題分析を投げかけたり。
・地域課題でもその他の問題でも問題となる事柄は利害が複雑に絡み合って解決が容易でないから問題として存在している。調べていくと生徒たちは解決が困難であることに気づき、「むっず〜」「もう無理」となるので、その先のもう一歩を先生がどう後押ししたのか聞きたい。
→国政ではなくまちの問題点を取り上げるので比較的解決しやすい問題が多い。問題解決に向けた段階で先進的な事例を探ることもある。明石市の子育て支援の例を挙げて、埼玉市でも同様のことをすればどうなるか、など。真似しやすい例が地方ほどある。国政になると各政党や様々な立場の意見を理解した段階で終わってしまい、解決までもっていけない。農業政策の問題を扱ったときは、考えるのが苦手な生徒が集まった班では安易に解決策を出してきたり、SNSで発信することに頼る班が多かったり。そんな中でも、多くの人の立場から問題の原因を考えている班もあった。耕作地を貸したい人、借りたい人をどんなふうに把握してどんな方法でマッチングできるか、など。行政のやってることに基づいて問題を捉えることができた。

― 以下議論(授業実践で困難なことはなにか、教材に適している社会課題は何かなど) ―
・公共の授業は、現代社会を考えるうえでの視点→政治経済それぞれの領域ごとに知識概念を身につけながら具体的課題を見つける。最後に何らかの課題を設定して解決策を探る。という流れと理解しているがこの実践は最後の部分に当たるのではないか。知識概念なしでも実践できる気がするが、授業のスタートで扱える教材ではないか。→最初にやってもよい。その後の生徒のモチベーションアップに繋がったり、社会を多角的に見る視点がついたりするかもしれない。
・概念的知識獲得は大事だが、すべて網羅するのは時間的に不可能。例えばフランス革命を7時間するぐらい一部分を大きくすれば、あとは人間の動きがだいたいわかるのではないか。
・よく言われるような課題は挙がるが、生徒にとっては課題を発見することが困難にみえる。どう促せばよいか。→多くの意見が出れば、いくつかは深い学びに繋がりそうなものもある。他のクラスメートのようにできなくて落ち込む場合もあるが、多くの意見に触れる中で求められているものがわかってきたりする。問題解決については原因をしっかりさぐって解決策を出すのが大切。
・問題解決のアプローチに大切にしていることは何か→現象だけを扱っており、それについて対策がとられているかなどを議論している。価値観を変えるということろまでしていない。
・政治分野は身近に感じにくいのか生徒の食いつきがよくない。問題の難しさに直面して考えるのを放棄する生徒が出てくることもあるが、そんなときどうもっていけばいいかが難しい。これに対して解決策が出せなくてもこれまで以上に生徒が問題に対して向き合う姿勢が少しでも前向きになっていれば十分な成果という意見もあった。
・政策立案以外の授業を年間でどうされていたのか
・社会にどのような問題があるかを自分たちで自分の問題として見つけるプロセスを大事にしていく。そこがあれば子どもたちはしっかり学ぶし、学んだ経験は社会に出てからも生きる。例えば、外国籍の生徒が在籍して日本語でコミュニケーションが取りにくい教室であれば、社会でも同じ問題があるはずで、社会でそれをどう克服するかをみんなで考えるなど。
・兵庫県には県教委が出している事例集がある。兵庫県にはいろんな地域があり、それぞれの地域の観光や医療など考えられそうな事例をいくつか集めて教員が授業しやすいよう、スライド資料や学習指導計画を作ってアップしている。
・選択授業で人数が少なかったこともあるが、課題を調べて解決策を提案するところまでもっていき「請願」のイメージでまとめて、市役所の人にアポをとって聞いてもらったことがある。
・総合的な探究の時間のほうがそういうのはやりやすい印象。進学校の生徒は勝手に連絡を取って市役所やその他施設に行き、話を聞いてくる。先生は探究の時間のコーディネートなど背中を押すだけ。生徒の、必要性を感じる、やりたい、やらなければ、なぜ、をまずくすぐることがとても大切。
・政策立案の実践では実現可能性を考えれば考えるほど横の構造が大切になってくる。日常の授業がどういうもので、この実践が年間のカリキュラムでどういう位置づけになるのか。日々の授業が政策立案の実践でどう活かされているかなど、聞いてみたい。
・社会参画に関する授業実践をうまくやれば進学校でもどんな学校でも積極的に取り組む道がどんどん開けてくる。
・教室の社会化と社会の教室化を目指したい。教室での議論や課題発見を通して実際の社会の中で様々な問題が発見できると良い。さらに社会の中で教室のように一定のルールのもとで議論できるようにならないといけない。
(参加者19名)

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