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ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅

「これさあ、邦題でちょっと損しているんじゃないかって,
あたし、思うんだけど~」

「ま~たそういうことを言う~~」

「だってさ~、なんか「ふたつの心をつなぐ旅」なんて、ちょっとベタベタ
ツーマッチウェッティなイメージじゃない??」

「う~ん、まあねえ」

「いっそ原題通り、『ネブラスカ』だけで良かったのに」

「内容的に、確かにウェッテイな部分だってあるんだけれど
この作品、決してベタベタしている訳じゃない。
むしろ、すごく「乾いている」よね。」

「そうなのよ。そこがいいじゃない??」

「アメリカの風景が、また、いいのよ」

モノクロだからかしら。
ずーっと画面の中に、乾いた風が吹いている感じで」

「うんうん。」

「まず、モノクロっていうだけで、観ないのは勿体ない!」

「ってか、モノクロって「豊か」よね。」

「そうなの。ブランカ二エベスでも感じたことだけどさ
モノクロって、豊かよ!!」

「そういう訳で、あたし達大推薦、大絶賛のこの作品で
今日はSTARTよッ!!!」

「そうなの!まずは御挨拶。」

「おかずです!!!」

「ずーこです!!!」

「2人揃ってー」

「映画にブクブク~~♪」

「で、御挨拶も終わった所で、実際問題、わたしも最初
「今時モノクロ~~??」って思っちゃったのも、事実なのよね。」

「うんうん」

「なんかさ、今時モノクロで、雰囲気重視の、頭でっかちムービーだったら、
嫌だなあ・・・なんて思ったんだけれど」

「と~~んでもない!!」

「と~~~んでもない!!!」

「頭でっかちムービーどころか!だわよ」

「観た人によってはさ、小津映画の影響だとか、
あれこれ語る方もいらっしゃると思うけれど」

「語るよね~~~、きっと。」

「語るわよ~~、きっと。」

「でもまあ、なによりアレクサンダーペイン監督、
「人間が好きなのね」
っていう、さ。」

「うん。しみじみと、ね。」

「観ているうちに、わかるよね~~~。
モノクロでなくちゃいけなかった理由。」

「うんうん。
このストーリー、色で邪魔されたくなかったし、
モノクロだからこそ伝わってくる!!
っていう、ね。」

「そうよねえ」

“モンタナ州のウディ・グラント様
我々は貴殿に100万ドルをお支払い致します"
誰が見ても古典的でインチキな手紙を
すっかり信じてしまったウディは、
ネブラスカまで歩いてでも賞金を取りに行くと言ってきかない。

大酒飲みで頑固なウディとは距離を置く息子のデイビッドだったが、
そんな父親を見兼ね、骨折り損だと分かりながらも彼を車に乗せて、
4州にわたる旅へ出る。
途中に立ち寄ったウディの故郷で、デイビッドは想像もしなかった両親の過去と出会うのだが—。
(amazon解説参照)

・・・っていうのが、主なるストーリーなんだけど」

「あたしが感心したのはさ、家族ってのはとっても近いけど
でも、実のところ、とっても遠かったりもするじゃない?」

「ん?どういうこと??」

「例えばさ
あーた自分の両親のこと、ほんとに知ってる??
わかってる??」

「え~~~??・・・うちの両親は・・・良い子よ。」

「・・・いや良い子とかそういうことじゃなくて」

「なによ。うちの両親、悪い子とでも??」

「そうじゃなくてさあ
あーた・・・厄介な子?」

「誰が厄介な子よ!失礼な!!」

「あーた、例えばさ、父親がどんな女性と付き合っていたとかさ、
知ってる??」

「いや~~~それ、どうなのよ。
あたしは、別にそんなこと知りたいとは思わないけど~。」

「でしょ?
なんかさ、結局、人って自分が知りたいことしか知ろうとしないじゃん」

「まあ、ね。」

「で、その限られた情報量の中で、「理解している」「知っている」って
思っているものなのよねえ」

「そう言われればそうだけど・・・」

「この父親ウディ・グラントは、大酒飲みで頑固ものなんだけれど
そこには「理由」があったのよね」

「ああ、そうね。」

「息子デイビットは、その「理由」を知った時、本当に驚くじゃない?」

「うん」

「あれ観てさあ、あたし、なんか泣けてきちゃって」

「なんでよ~~花粉症??」

「ま、そうだけど。・・・って、
今は贅沢マスクを賛美する時間じゃないのよ!!
いや、あたしの亡くなった父親がさ、亡くなる前に、元気な時にね、
あたしと一緒に、昔住んでた所に旅行に行きたいって言っていたのよ。」

「へえ~」

「だけどさ、あたしにとっては、父親って微妙に煙たい存在だったしさあ
ってか、母親に比べると、父親って誰にとっても・・・じゃない???
だから、別にあたしと一緒じゃなくてもいいじゃないのって思って。」

「うん」

「夫婦で行けばいいじゃんとか、とにかくあたし以外の誰かと一緒に行けばいいとか言って、うやむやにしちゃったのね。

だけどさあ・・・もう、ほんとに後悔先に立たずだけれども
行けば良かった
行っとけば、父親の違う顔が見られたかもしれないのにってさあ・・・」

「・・・・」

「このデイビットを、「孝行息子」って一括りにするのは、簡単だと思う。

でも、本当はさ、デイビットが父親に「興味」を持つことによって、
その「興味」が広がることによって
物語はほんとの意味で始まっていくんだわよねって、あたしは思ってさ~」

「・・・・そうは言っても、興味を持つって、
案外ハードル高かったりするわよね。」

「そうよね。浅い所で判った気持ちになっている方が、楽。
更に言えば、わかりやすく放っておくより適当に関わる方が却って楽だってことだってあるわ。」

「そうね。」

「この作品でも、デイビッドが昼だけじゃなくて「夜」も父親と一緒にいるっていうのって、やっぱり踏み込む気持ち、ほんとの意味で
「興味」が出てきてからのことじゃん??」

「そうね」

「デイビットが、パンチするシーンがあるでしょ?」

「ああ、あのシーンね」

「あれもさ、旅の最初だったら、すーっと流していたと思うのよ。」

「あ、そうかもね」

「だけど、あのパンチでさあ、
ああ、デイビット、ほんとの意味で父親に気持ちを添わせたんだなあって
あたし、切なくて、嬉しくて。」

「うんうん。」

「主役の父親ウディ・グラントをやるのは、ブルース・ダーン。。」

「あーた的にあれこれシンクロした物語だったのね」

「うん。まあ、あたし自身の事はともかくとしてもさ
ほんとに「興味」のあり方ってことについて
とても考えさせられたっていうかさ・・・そういう作品だったの。」

「うん」

「ブルース・ダーンが、とにかくいい!!
ブルース・ダーンが寝ているその寝顔が、生きているのか、
ひょっとして死んでいるんじゃないかって、なんというか、境界線の顔で、
そこもまたリアルでさあ、こういっちゃなんだけど、グッとくるのよね。」

「ああ、そうね~」

興味を持って向き合っても、残された時間はとても少ないという現実を
寝顔一つで伝えられてしまうの。」

「それと親戚の家に集まってさあ、他人とは違うから、
結構突っ込んだやり取りがあったりするのに、ギリギリのところでね~~
取り繕ってみたりするシーンとかあったじゃない??」

「ああいうのって、国が違っても一緒なのね~~」

「ね~~~~」

「口うるさくて、「お金が入ったら旦那を老人ホームに入れるわ」って言っていた、あのウディの奥さんの「啖呵」シーン!」

「なんだろうね。あの深い深いところで繋がっている感じ」

「奥さん役のジェーンスキップ、上手いわ~~~!」

「アハハ強烈だけどね。上手!!!」

「割れ鍋に」

「綴じ蓋」

「ああいうのはさ~~やっぱり若い夫婦には、醸し出せないよね」

「そりゃそうだわよ。」

「割れ鍋に」

「綴じ蓋」

「とにかく、結局100万ドルは手に入れられなかったウッデイの物語の
あの着地の見事さ!!」

「とても素敵で、あざとくなくて、ねえ」

「男同士のロードムービーに、ハズレなしッ!」

「なしッ!!!」

「胸が熱くなる展開と、見事な着地」

「邦題に負けずにご覧になって!」

「ぎゅっとくる大切な一本よね。」

「ぜひ!」

「ぜひッ!!」


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