見出し画像

あの子のケース

あんたは小さい頃は本当にお爺ちゃん子だったって
何かの時には鬼の首でもとったように
両親は言うけれど

そんな人間未満だった時代のことを言われても
お爺ちゃんと御婆ちゃんは、私とは別々に住んでいるし

会っても同じ話ばかりする人の事は
正直、イマイチぴんとこない。

それでも、お正月に顔を出したりすると
お年玉くれたりするし

そのたびに
「幾つになった?」って聞かれるのは面倒くさいけれど
ちょっと我慢すれば
この間なんて3万円入っていたりしたし

お母さんが
「こんなに沢山!返しなさい」とか目の前で言うから
本当に返さなくちゃいけなくなるって、ひやひやしたよ。
余計なことは言わないで欲しいわ、全く。

お爺ちゃんが入院したから
みんなで病院にお見舞いに行くって。
えーーその日は友達と約束していたのに
久しぶりに会うんだったのにって

でも、お母さんの機嫌が悪くなったから
あーーーーー仕方ないなあ。
ため息交じりでついて行った。

お爺ちゃんは病院のベッドで
小さくなって眠ってた。

お爺ちゃんって声をかけたら
眼を開けて

「あーーーー」

って、言った。

そして、おばあちゃんに
「メロンを切ってあげなさい」って。

いいよいいよ
そんなのって言ったけど

「美味しいから。
お爺ちゃんは、いいから、一杯食べなさい」って。

冷えてもいないメロンは
甘かったけれど
なんか
あまりおいしくなかった。

メロンを食べたあと
まだ帰らないのかなあ~って思っていたら
お爺ちゃんが、私の名前を呼んだ。

「何?」

「・・・これ」

って、お爺ちゃんは、5000円札を私の手に握らせた。

「え?・・・いいよ、こんなの。」

さすがにそう言ったら
お爺ちゃんが

「今日、来てくれたから、
お小遣い・・・。」

って言った。

お母さんは

「・・・戴いておきなさい。」って言った。

・・・・・・
・・・・・・

なんか、凄く、哀しくなった。

・・・・・・
・・・・・・

お爺ちゃんの退院の日は
まだ決まらない。

だから
次の日曜日

私は、一人でお爺ちゃんのお見舞いに行く。

お爺ちゃんからもらったお小遣いで
メロンを買って
お爺ちゃんと一緒に
食べる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?