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全て、貴方のせいです。 第8話

概要

 この世ならざる場所に、浅草8丁目が存在する。今回は、そこに住む者の物語。

筆談の覆面作家

 浅草8丁目にある立川団地。404号室に、とある随筆家が住んでいた。その人物は普段、部屋に引きこもって小説やエッセイを綴っている。
 時折、人間界に現れては、人々を魅了する言葉を世界に届けていた。
 用がある人とは、浅草1丁目で待ち合わせをする。灰色の着物をまとい、雷門の前にあるガードパイプに腰かけ、般若のお面を被って待っている。また、やり取りは筆談で対応した。
 その物書きが綴るブログは、瞬く間に日本中で話題になり、小説の出版依頼が殺到。
 「本を出せる」と言われれば、物書きであればこれ以上ない喜び。なのに、何度頼んでも首を横に振る。それでもしつこく依頼する中で、担当編集者が思いの丈を述べた。
 「自分は元々小説家志望でした。毎日毎日、眠たい目を擦りながら、何年も必死に言葉を紡いできたんです。なのに賞が取れず、30を迎えたので夢を諦めました。でも、業界には居たかったから編集者をやっています。言葉を紡ぐ運に恵まれた貴方は、とても幸運だと思うんです。物書きの世界って才能なんですよ。自分が飯を食わずに文章を書きまくったところで、有名にはなれませんでした。でもあなたは、違う。幸運を手にする事が出来るんです。本当の事を言えば、自分が書きたいくらいですよ。そんな奴らの為にも、物書き目指してる奴らに夢を与える為にも、あなたの魅力的な言葉を世に放つべきなんです!」
 感情を込めて伝えた。その言霊が届いたのか、物書きは依頼を承諾。『旅館に缶詰めになって筆を執ってもいいなら』と書かれたメモを渡した。
 さらに、仕事をする上での条件も提示した。その内容は、顔や性別に年齢など、全ての個人情報を隠すこと。つまりは、覆面作家としての活動を認めることだった。

 それから数カ月後。期日になっても原稿が納品されず、連絡もない事に痺れを切らした編集者。
 旅館に着き、宿泊していた部屋を訪れると、そこには人っ子一人居なかった。
 女将に訊いても、泊っている間、物書きが部屋から出たことは一度もないと答える。
 和室の机上には、ノートパソコン。開いてみると、テキストファイルが表示された。
 文章の内容は下記の通り。
 『失踪した作家の代わりに編集者が本を書き、その作家に成りすます。そして、新たな担当がついた時、元の編集者も姿を消す。本の執筆を新担当に託したうえで』
 編集者は気付いた。キーボードの上に残されたメモに。紙切れに書かれた一文。
 『貴方にも、言葉を紡ぐ機会を与えましょう』

 数年後。
 覆面作家の担当編集者が次々と失踪する。そんな怪事件に悩まされた出版社は、その作家との契約を打ち切る事にした。こうして、覆面作家の本は全て、絶版となった。
 ただ、一部の物好きの間で出回った覆面作家の本。それには、とある噂話がついてまわった。
 「この本を読むと、読者は気が狂ったように髑髏へ執着するらしくてさ、まるで取り憑かれたみたいに髑髏を集めたがって、それを前にして拝むんだって」
 そんな都市伝説を生みだした作家が、失踪前に書いていたブログ。その名は、『SWAN SONG』――

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