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全て、貴方のせいです。 第5話

概要

 筆者の先祖は、死神と髑髏を崇拝するカルトを信仰していた。深掘りしていくと、村で起きた『鮫島事件』とは何だったのか、知る事になる… …。

蠱毒

おばあちゃんは、日記を庭に埋めた後、家に火を放ちました。

幸い、燃え盛る炎を見た勇敢な村人によって、私だけは助け出され、村人達が一丸となって育ててくれました。

しばらくして、家を解体工事している時、作業員が土の違和感に気が付き、日記を掘り出しました。

日記を手に取った作業員達は次々と病で倒れ、帰らぬ人となりました。それを見た村人は、「呪いの書だ」と噂しました。

いつしか私まで呪いの子として忌み嫌われ、3歳の時、遠く離れた街の施設に入れられたのです。

持たされたリュックの中には、おばあちゃんの日記が入っていました。そこには、家を燃やす直前の言葉が遺されていました。

「住職の鮫島さんが説法で言っておった。『言葉が世界を作っておる』と。言霊を大切にせえって、口を酸っぱくして話しとったな。
 そんな人が、村中に変な張り紙をしまくっとった。
 『彁』と書かれていた紙を、門扉やカカシだろうと所構わずそこら中に貼るもんで、村の皆は気が狂ったと噂したよ。ワシはそれを見てから、この文字が頭の中から離れん。食事が喉を通らんし、何日も寝とらん。
 彁って何じゃ?
 彁彁彁彁――」

紙をめくると、あまりのおぞましさに日記を投げ捨ててしまいました。

乱雑に書かれた『炎が本来の姿を取り戻す』という言葉。数え切れないほど書かれていました。

おばあちゃんは知ってか知らずか、言葉に魂を込めていたようです。存在しなかったはずの髑髏本尊が、崇め奉られた事で具現化したように。

4月3日。私が日記を読んでいる時にテレビで速報が流れたらしく、施設の中が騒がしいです。

職員同士で話しているところを盗み聞きしました。

「髑髏村で住職による連続放火事件があった」って。続けて、こう言っていました。

「火の中で村人達は踊ってたらしいよ」

後に、住職の名前から取って、マスメディアは「鮫島事件」と名付けました。

村が火に包まれる中、村人は逃げる事なく、自ら死を選んだ。この異様な事件は連日テレビで報道され、日本に衝撃を与えました。

髑髏村は狂人と死人だけになった。火が全てを燃やし尽くし、残るのは骨。村そのものが灰と化した今、村人の生き残りは私だけとなった。

それは即ち、古代から続く呪いを一手に引き受けたという事。

この強大な呪縛から解き放たれるには、私は自分を殺せば呪いなんて無くなるのかもしれない。しかし、そんな事を理解できる歳ではない。あまつさえ、幼い私に自殺なんて、出来るはずもありませんでした。

その日の晩の事。

星の煌めきが心を洗う。施設の屋上で横になり、天の原を眺める。それが3歳の頃から日課でした。

両手を重ねて枕を作り、今にも眠りそうな時。瞼に羽根が落ちてきました。その拍子に目を覚まし、どこに鳥がいるのかと起き上がると、カラスの鳴き声が聞こえてきました。

「妖怪と人間の子供。さしずめ、『半妖怪』と言ったところか」

声がする方を見たら、屋上の縁にとまり、こちらを観る鳥。

私は微睡みの中から飛び起き、思わず悲鳴をあげながら後ずさりし、出入口のドアがある壁に背中が当たりました。

怯えていると、鳥は言葉を続けました。

「我が名は死の鳥。神託を授けにきた。4月4日、4時44分。お前は覚醒する」

鳥の口は動いておらず、直接脳内に語りかけてきているようです。さらに怖くなって、硬直してしまいました。

その日は、4歳の誕生日なのですから。

「蠱毒で高めた呪いの力を活かせ」

鳥は優雅に翼を広げ、星空の中を飛び回りました。

私はしばらく固まったまま。状況の把握ができず、困惑と不安に押し潰されそうになりました。悪い緊張に苦しめられていると、出入口のドアが勢いよく開きました。

「君! 屋上に入ったら危ないよ!」

見回りに来た職員が、私を睨みながら腕を捕まえ、部屋へ連れ戻そうとします。私は咄嗟に鳥の羽根を手に取りました。

そして、こう呟くのです。

「死は平等に訪れる」

大きく振りかぶり、力を込めて職員の胸に羽根を刺す。引っこ抜くと、血しぶきが星を染める。

職員は傷口を抑えながら倒れました。

コンクリートの上に滴る血液。赤く染まった羽根。

私は、血を使って地面に文字を書きました。

『ほのおが、ほんらいのちからを、とりもどす』

書き終わった瞬間、火災報知器が施設に鳴り響きました。そして、職員や入居者が喚き騒ぎます。

「火事だ!」

2004年4月4日、4時44分の出来事。

見上げると、月明かりの下で、死の鳥が羽ばたいていました。

この言葉を知ったのは、数年後になります。

――月夜烏は火に祟る。

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