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時々、DVDレンタル店員。(2)

業界の誰かと「いよいよDVDレンタルをしていたおじさんたちがアマゾンプライムの存在に気づき始めたみたい」と話したのが確か2017年。その辺りから明らかに客数が減っていった。私が働く店は郊外にあるのでメインはファミリー層。定期的に来て、お盆休みには車の中で見るからと大量に借りていくような家族連れが、段々と減っていった。客数の回復を狙って、料金システムもおトクなものに変更。そうすると当然利益率が減るのだが、客数はそれをカバーするほど伸びなかった。そして、昨年末、これまで経験したことないほど、忙しくない年末。もう本当にレンタルという業態はダメになったのかもしれない、、、と思った。いよいよか。

そんな時のコロナ禍。3月以降、客足が明らかに伸びた。毎日が日曜日の忙しさ。期限切れ会員証の更新がとても多い。つまり1年以上、店に来ていなかった人たちが帰ってきたのである。リモートワークになったお父さんたちが子供たちを連れてくるというパターンが増えた。そして、そういう人たちは滞在時間が長い。ディズニーやジブリのアニメ、ハリー・ポッター等定番だけだとつまらないだろうと、「子供と楽しめる洋画」の特集棚をつくった。いつもはなかなか借りられないイラン映画の『友だちのうちはどこ?』『運動靴と赤い金魚』などもプッシュ。こういうのホントに親子で観て欲しい。

なぜ人々はレンタルDVD店に戻ってきたのか。Amazonプライムでもアニメはたくさんやっているだろうに。配信サービスが提供できないのは、DVDパッケージという「モノ」感とそれがギッシリ詰まった物理的空間。パッケージを手にとり、家族で一緒に1枚ずつ選んでいくという行為が、近場での「ちょうどいいレクリエーション」の役割を果たしていたのだろう。
3月は開店以来の最高益となったが、4月は途中から緊急事態宣言を受けて休業。5月半ばから万全な感染予防対策、店舗面積縮小、人数制限を設けて営業を開始した。休業前と比較すると、客足は激減。コロナ禍前にいた常連客の足は遠のいたままだ。

昨年大ヒットした某アニメと某SFの2本がレンタルDVDから配信に切り替えて新しい形態で販売することになっていたが、ちょうど休業期間中に当たってしまい、全く売れなかった。配信とのせめぎ合いに輪をかけて、どんなに消毒しても、誰が触ったかわからないものを持ち帰るというレンタルの形式自体がwithコロナの時代には合わないのかもしれない。

しかし、数は少なくてもお客さんはいる。ここで一番大事な仕事は映画との新たな出会いの場をつくることであり、それは客数とは関係ない。やっぱり今なら #blacklivesmatter でしょ。コロナ禍において益々内向きになり、世界で起こっていることに関心が薄いのは恐ろしいことだ。早速展開棚をつくる。少し前だったら、スパイク・リー作品メインで小さく展開するしかなかっただろうが、今は『グリーンブック』『ムーンライト』などオスカー受賞作もあってメジャー感がある。イチオシは『私はあなたのニグロではない』『ビールストリートの恋人たち』のジェームス・ボールドウィン原作の2本。今はエンニオ・モリコーネ追悼特集も追加。『遊星からの物体X』もモリコーネだったことを知らなかったなんて、恥ずかしい限りだけど。

ここはkinologueが映画というメディアを定点観測する場として、機能し続けている。



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