最近の記事

歌行燈

泉鏡花の小説『歌行燈』を読みかえしています。 もう何度読んだでしょうか。小説オールタイムベストをあげよといわれたら、真っ先に思い浮かぶ作品のひとつです。 『歌行燈』が発表されたのは明治43年、いまから100年以上前ですが、鏡花が紡いだことばは時の試練に耐え、今も変わらずいきいきと呼吸しています。すこしも飽きることはない。これからもきっとそうでしょう。 この作品の魅力を挙げればきりがないのですが、たとえば冒頭部分を読むと、流れるような語り口にのせられて、現実からスーッと引き

    • 能に遊ぶ

      先ごろ、高松市で開かれた『かがわ能楽講座 ~日本の伝統芸能・能楽を楽しもう~全6回』の第2回「ワキ方の魅力 謡を楽しむ」に参加しました。 講師は安田登さん。ワキ方下掛宝生流の能楽師として国内外で活躍し、能の手法を生かした作品の創作・演出・出演を行うなど多智多才な方で、著書も多数。古事記、論語などの古典に描かれた“身体性”を読み直す活動もつづけていらっしゃいます。 能好き、かつ古典文学好きのわたしは、日頃、安田さんの多方面にわたる仕事から刺激を受けています。とりわけ「TED×

      • 見巧者

        4年ほど前のことです。 図書館で借りた馬場あき子さんの歌集『月華の節』を読んでいて、ある連作短歌にぎゅっと心をつかまれました。 「秋風帖」と題するその一連二十三首の前書きには、〈昭和六十年九月十一日、羽沢ガーデンに於いて趙名人に小林十段挑戦す。縁あつて名人戦を観る〉とあります。つまり、馬場さんが囲碁名人戦に立ち会ってうまれた作品です。 印象にのこる歌をいくつかあげます。 馬場さんがここに掬い上げた碁の世界には、勝ち負けにとどまらぬ深い味わいと凄みがあって、読むたびに心を打

        • 三年半

          将棋を観るようになって三年半ほど経ちました。 その間 将棋に対する感情はゆるやかに変化していますが、離れることなく観つづけています。本を読んだり映画を観たりするのと同じくらい将棋を観ることが暮らしになじんできました。将棋観戦を知らない毎日ってどんなふうだったかなとおもうくらいには。 とはいえ観るだけですので、棋譜を眺めるだけでは理解が行き届きません。 それでも、棋譜コメントを頼りに局面を追っている間は日々の雑事から離れて没頭しています。時間ごと自分が消えるような感覚を抱き