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内部通報制度の機能不全を改善する方法【具体事例4選】

最近の企業不祥事においては、内部通報制度が機能せず、事業者内部に通報しても、問題の是正が期待できないと思われる事例が散見されています。

【事例1】
建築基準法違反により製品の認定取消、不正競争防止法違反の容疑で捜査された事例

「約1年間、上位の幹部及び経営陣への情報の伝達が遅れており、その間、複数の従業員が本件の問題行為の疑いについて把握していたにもかかわらず、内部通報制度を利用した者はいなかった
(A社 社外調査チーム「調査報告書」(平成27年6月19日)より抜粋)

【事例2】
金融商品取引法違反により約73億円の課徴金納付命令(過去最高額)を受けた事例

「内部通報窓口が設置されて(中略)いたが、本案件に関係する事項は何ら通報されていなかった
「内部通報制度等による自浄作用が働かなかったのは、会社のコンプライアンスに対する姿勢について、社員の信頼が得られていないことも一因
(B社 第三者委員会「調査報告書」(平成27年7月20日)より抜粋)

 さらに、「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方(平成30年10月 金融庁)では、次の点が指摘されています。

「多くの金融機関において、問題事象を感知した者が社内外の専門窓口に直接通報できる内部通報制度が整備されている。
しかし、現実には、内部通報制度が活用されず、長期にわたり問題事象が認識されない事案や、報道機関等への内部告発によって発覚する事案もみられる。
これらの事案の背景には、問題事象を感知した者が、通報の適正な取扱いや通報者の保護に関する懸念を拭えないという事情があると考えられる。」

■内部通報制度が機能しない原因

「内部通報制度が信頼されていない。」
これが大きな原因になっています。

「平成28年度 労働者における公益通報者保護制度に関する意識等のインターネット調査報告書」(消費者庁)では、「内部通報制度に対する労働者の信頼度の実態」として、次のアンケート結果があります。

●勤務先の不正についての最初の通報先として、勤務先以外(行政機関や報道機関等)を選択する割合は、47%に上る。

つまり、従業員が内部通報しよう(すべき)と考えても、「十分対応してくれないのではないか」「不利益を受けるおそれがある」と心配しているのです。

●勤務先への通報後、状況が改善されない、誠実な対応がされない等の場合に、外部(行政機関や報道機関等)に通報しようと思う従業員は82%に上る。

そこで、今回は、
●内部通報制度の機能不全を改善する方法【具体事例4選】
について、解説します。

この記事から、
内部通報制度を機能させるために何が必要なのか?
について分かりますので、ぜひ最後まで、ご覧ください。

■「指針」からの要請

「指針※」においては、内部通報対応体制を実効的に機能させるための措置として、次の考えが示されています。

内部通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管する。
内部通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部通報対応体制の改善を行う。
内部通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者等及び役員に開示する。

(※)指針
公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)

■内部通報制度の機能不全を改善する具体事例

【その1】

自社の内部通報制度について、定期的な評価・点検を実施する。

【評価・点検の方法】

●役職員に対し、年度毎および必要に応じて随時にアンケート調査(匿名アンケートを含む)を実施し、内部通報制度の周知状況や信頼度等の実態を把握する。

●内部受付業務従事者、調査業務従事者、是正措置業務従事者の従事者間で、定期的に内部通報制度の改善点について意見交換を行う。

●内部監査部門や中立・公正な外部の専門家等による評価・点検を受ける。
・制度の整備状況(指針に準拠しているかどうかの評価・点検を含む)
・制度の運用の状況・実績
・制度の役職員への周知状況
・役職員の制度への信頼度
・役職員研修の効果
・今後の課題等

【その2】

前記1.の評価・点検結果に基づき、内部通報制度を継続的に改善する。

【その3】

内部通報制度の運用状況・実績を積極的に報告・開示する。

内部通報制度の所管部署は、内部通報者を特定させる事態が生じないよう十分に留意したうえで、制度の運用状況・実績を四半期毎および必要に応じて随時に積極的に報告・開示する。

【運用状況・実績の報告・開示先】

・代表取締役社長
・取締役会
・監査役会
・コンプライアンス委員会
・職員(研修会・イントラネット・社内報等)
・株主(CSR報告書・ディスクロージャー誌・ウェブサイト等)

【運用状況・実績の報告・開示内容】

・過去一定期間における通報件数
・是正措置等の有無
・対応の概要
・内部通報を促すための活動状況等

【その4】

内部通報事案は、真剣かつ公正に処理し、その実績を積み上げる。

スルガ銀行株式会社 第三者委員会の「調査報告書(公表版)」には、次の内容が述べられています。

適切に対応した事例が出ると、従業員の見る目も変わる。通報があった案件についてきちんと調査し、厳しく処分する(上司であろうと経営幹部であろうと)と、そのような情報は社内に拡散し、明るい希望になる。したがって、まずは、通報があった案件について、真剣かつ公正に処理をし、その実績を積み上げることである。

それでは、今回のまとめです。

今回は、「内部通報制度の機能不全を改善する方法【具体事例4選】」
について、解説しました。
1.自社の内部通報制度について、定期的な評価・点検を実施する。
2.前記1.の評価・点検結果に基づき、内部通報制度を継続的に改善する。
3.内部通報制度の運用状況・実績を積極的に報告・開示する。
4.内部通報事案は、真剣かつ公正に処理し、その実績を積み上げる。

ぜひ、今回の記事を参考にして
内部通報制度を機能させる工夫を積み重ね、内部通報制度に対する役職員や消費者、取引先、株主・投資家、債権者、地域社会のステークホルダーの信頼を向上させていきましょう。

福田秀喜(行政書士福田法務事務所)

【追伸】

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【追伸2】

この記事の内容は、YouTubeでも紹介しています。



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