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掌編小説【交換日記】

お題「豆本」

「交換日記」
 
僕の彼女はコロボックルだ。
ひかえめな彼女と愛を交わす主な方法は交換日記である。
もちろん彼女にも使える大きさでなくてはならないので、人間界で「豆本」と呼ばれるちいさな本が僕たちの交換日記として使われている。
彼女が僕の手の平に座って交換日記を読む姿はとても可愛らしい。
しかし僕はその姿を見るために、そら豆サイズの本に文字を記さねばならない。
そのために僕が見つけたのは電子部品製造現場で使用するという000号サイズの筆である。
その筆を持ち、時計修理職人が使うような拡大鏡をかけて愛の言葉を書き記す。
彼女は時々こっそりとその様子を見に来る。
「見ちゃだめだよ、交換日記なんだから」僕は彼女をたしなめる。
そう言われても彼女は知らん顔してリカちゃん用のコーヒーカップでお茶を飲んでいる。
(僕がそれを買った時の恥ずかしさを考えてほしい)
そしてまた突然僕の拡大鏡の下に入り込んで僕をびっくりさせたりする。
拡大鏡で彼女を見ると、僕を見つめる彼女のまつ毛まではっきり見える。
笑うとちゃんと震えるまつ毛。その下で輝く琥珀色の瞳。花びらみたいな耳。
「手を見せて」と僕は言う。彼女は拡大鏡に向かって手の平を広げる。
「ふむふむ・・・君は100歳まで生きるよ」僕は言う。
彼女がちいさな小さな声で応える。「じゃああなたは101歳まで生きてね」
「がんばります」
000号の筆で苦労してそう書いたら、彼女は手の平でコロコロと笑った。

おわり (2019/10 作)

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