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掌編小説【やりなおし】#春ピリカ応募

お題「ゆび」

【やりなおし】

「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼん、のーます」
子どもの頃、そうやって歌いながら何度も小指を絡めあったけど、私はその約束を全て守ってきたかしら?まったく覚えていない。

「小説家はうそつくのが商売だからねぇ」
そう言いながら、アシスタントの早耳うさぎが後ろ足で耳をかきながら器用に資料整理をしている。
アシスタントにうさぎ?またそんなー、あはは。それAIの名前ですか?
編集者にそう言われて以来誰にも話していないが本当に私のアシスタントはうさぎなのである。しかも早耳だから情報収集が早くアシスタントとして非常に有能である。

そもそも世界を冒険する少年少女たちに、なにかしらのお供の動物が付いているのは常識だ。どうして私にも動物が付いていけないことがあろうか。
うさぎとは私が少女の時に小学校の飼育小屋で出会った。とても賢そうな顔だったので話しかけてみたのだ。
「ねぇ、うさぎって本当ににんじんが好きなの?」
「ぼくはレタスが好きですね。とくにパリッとしたのが」
ちょうどその時、えさ当番の私が持っていたのが祖父の畑で獲れたばかりのパリッとしたレタスだったので、気を良くしたうさぎは私となかよくなった。

私はキーボードを打つ手を止める。
「指切りげんまんと恋人たちが指を絡ませるのを、お話に絡ませたいのよ」
「ああ、それでさっきのつぶやき?」
「幼なじみと将来結婚しようねって指切りげんまんした主人公が、約束を果たす前に死んじゃうの。でも幽霊の身では指を絡ませることもできず…」
「ちんぷ!」
ビシッと私の眉間に手を突き出してうさぎが言う。きびしい。

「あれ、そういえばうさぎって指あるの?」
話を逸らそうと、突き出された手を見て私は言った。
「いまさらなにを…。何年一緒にいるんだ」
うさぎは私の目の前に再度手を突き出した。ピンクの肉球。
「あ、五本あるんだね、ちゃんと」
「でも後ろ足は四本なんだよ。覚えておいてくれ」
「ごめん、知らなかった…」
うさぎは肩をすくめる。まったくこの人は…というように。
「ね、じゃあさ、せっかくだから指きりげんまんしようよ」
私はうさぎの機嫌をとりたくなって言った。
「なんの約束ですか?」
敬語になった時のうさぎはこわい。私は考えた。
うさぎの機嫌をとるにはどんな約束をしたらいいだろうか。
私の頭脳よ、ひらめきよ…うさぎが一番喜ぶ約束とは…。

「私、あなたに毎日パリッとしたレタスを提供するわ!」
うさぎはハーとため息をついた。口の形が『ち・ん・ぷ』と動く。
「それは、はじめて会った時にした約束ですぜ。守られてませんがね。なんでしたら針千本飲んでいただきやしょうか」
うさぎは怒ると敬語を超えてヤクザ言葉になる。

ぐいっと小さなゆびを突き出してうさぎは言った。
「ゆびきりげんまん、うそついたら、やりなーおしっ!」
それでも悪いのは口だけだ。やさしいうさぎ。
私はえへへと笑いながらうさぎのゆびに指をからめた。


おわり (本文1192文字)

(2023/5/6 作)

参加されているnoterさんがたくさんいらしたので、私も…
なんでこんな話になったのかは、あいかわらず不明…(;・∀・)
AIアシスタントよりうさぎアシスタントの方がいいけどな~

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