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SS【自然に】#シロクマ文芸部

小牧幸助さんの企画「変わる時」に参加させていただきます☆

【自然に】(660文字)


「変わる時がくれば自然に変わる、って言ったでしょう」
 驚いた私が母に電話をしたら、波間に漂っているみたいにのんびりした声が返ってきた。
 それでようやく、私は自分が聞き違えていたことに気がついた。
『自然にわかる』だと思っていたのだ。かれこれ二十年も。

「でも突然過ぎない?朝起きたら変わってるんだもの。予兆みたいなことがあるのかと思ってた」
 『わかる』だと思ってたから……とは言わなかったけど。
「朝起きたら自然に変わってたんでしょう?」
「自然かなぁ。心の準備ってものがいるじゃない」
「文句言うために電話してきたの~?もう変わっちゃったんだから仕方ないでしょう」
 母がゆるやかに言う。
 私は海に浮かんで漂っているような気分になってくる……。
「そうだけどさぁ」
「とにかく、無事に変わってよかったわぁ」
 母が心からホッとした声で緩やかにそう言ったので、私もようやく落ち着いた。

「これからどうすればいいのかな」
「自然にしていればいいのよ~」
 母は昔から『自然に』という言葉が好きだ。
 小学校に入学する前夜、不安を訴える私にもそう言った。
「自然にしていればいいのよ~。心配してもしょうがないでしょう」
 母からそう言われると不思議と安心したものだ……。
「じゃあ、いつも通り朝の珈琲でも淹れようかな」
「そうしなさいな~」
 波間に消えていくような母の穏やかな声を耳に残して、私は電話を切った。

 朝の珈琲か。
 でもちょっと淹れにくいなぁ。
 そもそも、どうやって台所まで行けばいいのよ。魚の尻尾なんかで。
 やっぱり人魚に変わる時には事前にお知らせがほしかったわ……。


おわり

……ちゃぷん


© 2024/4/7 ikue.m

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