お題「青写真」から始まる物語

【青い葉】(605文字)

『青写真』という言葉から私が出逢ったのは
数枚の青い写真。

青空に写し取られたような植物の白い影は
日光(紫外線)と薬品の化学反応から生まれる。
サイアノタイプ(日光写真)、というらしい。

青い葉を生み出したのは、アンナ・アトキンス。
十九世紀の植物学者。
一万枚以上の青写真を撮ったという。

それ以上のことを、私はまだ知らない。

今はただ、青い葉に見惚れる。
魅入られて…私は思わず話しかける。

ねぇ、アンナ。
この青い葉、なんてきれいなの…
すごいわ、こんな写真を撮るなんて。

…すごいのは私じゃないのよ。
アンナは控えめに微笑む。

…植物を創られたのは神さまだもの。
　私は、太陽と化学の力を借りて写し取っただけ。
　お手伝いをしただけなのよ。

アンナが想像したとおり優しい人だったので
私はもっとうれしくなる。

この青がね、とても好き。
…ええ私も、とてもとても好きよ。

晴れた日の空の色みたいね。
…穏やかな海の色でもあるわ。

私たちは一緒に空を見上げる。
ふと、アンナが問いかける。

…葉っぱを、晴れた空にかざしたことがある？
　葉脈が透けて見えるのよ。

もちろんよ、子どもの頃に！
そう答えると、
…私は大人になってからも。
とアンナが微笑む。

…はじめて撮った写真も、空にかざしたわ。
　神さまに見せたくて。

空を仰ぐアンナの横顔が、白い光に透き通っていく。

私は再び青い葉に見入る。
アンナと神さまが描いた青写真。

美しくないはずがない。

これは、彼女の愛を
写し取ったのだから。

おわり

(2024/2/3 作)

小牧幸助さんの『シロクマ文芸部』イベントに参加させていただきました☆

お題のおかげで、素晴らしく美しいものに出会えました！
小牧部長に感謝です☆

知らなかったのです…アンナ・アトキンスさん。
思わず十九世紀まで行って、話しかけてしまいました(*´ω`*)

※参考サイト