お題「木の実このまま税理士」

【悪気】(410文字)

「『大丈夫よ。探せば必ずあるんだから…』。母はそう言って息を引き取ったのです。ですからどこかにあるはずなんです。それさえ見つければ相続税はお支払いできます」

　キラキラしたつぶらな瞳は嘘をついているようには見えない。
　しかしなぁ。

「税は納めなくちゃいけないんですよ。決まりなんですから。お母さまを亡くされてお辛いのはわかりますが、探す努力はしていただかないと」
　彼女は俯いて、両手を胸の前で合わせた。
「まだまだ雪深いものですから…」
　やれやれ、またいつもの案件になりそうだ…。

　私は彼女の家を辞し、振り返って仰ぎ見た。立派な欅だ。しかしこういう家の持ち主ほど遺産が見つからず税を徴収しそびれるのだ。悪気がないだけに困る。

　…しかし、実は彼らには悪気があった。

「成功しそうですな」
「税務署員は帰りました。作戦名『木の実このまま』税理士さんのお知恵に従います」
「なぁに、ただ埋めた場所を忘れたフリを通せばいいんですよ。リスなんですからな」

おわり

(2023/11/29 作)

たらはかに様の11/26～12/1のイベントに参加させていただきました☆
今回は裏お題です。
今週もナントカ……

リスは冬用に埋めた木の実の場所の何割かは忘れる、っていうのはほとんどの方はご存知ですよね？
そうでないと成立しないお話…(;・∀・)
※参考サイト(かわいい写真付き)