シン・アリとキリギリス

夏の間、アリは額に汗してせっせと働き、一方、キリギリスは歌って踊って遊んでばかり。冬になり、アリは巣の中で、夏に溜め込んだエサを食べている。巣の外では、キリギリスが寒さに凍えて死んでいく……

だから、アリになりましょう、と学校では教える。

ちょっと怖いバージョンでは、アリは働きすぎて過労死、キリギリスがアリがため込んだ餌をいただく、そんなオチ。

僕が考えたバージョンでは、アリは人生を楽しむことを知らず、冬を迎えてしまった。エサはあってもつまらない。そこに、稀代のエンターテイナーのキリギリス登場。冬の間、アリを楽しませ、ギャラとして、エサを分けてもらう。そう、ウィン・ウィンな結末。

しばらく前のこと。職員室の隣の席のセンセイが、真面目で地道に学校の雑務をこなして感謝されていた。授業では、催眠術師のように数十人を眠らせ、僕とは一言も会話することはなかった。まさにアリだった。働きアリの方。きっと、キリギリスな僕が苦手だったのだろう。まだ教職を続けられたのだが、時代についていけないと、学校を去っていった。

シン・ウサギとカメも考えてみた。カメは遅くても歩みを止めず、着実にゴールに近づいていた。ゴール近くで眠るウサギ、突然、スマホのアラームが鳴る。目を覚まし、カメをさっと追い抜いて、ゴールイン。今は、そういう時代。

アリでカメならいい、と教える学校。
アリでカメならオワコンの現実。

学校では、成果は出せなくても努力するフリをしていればセンセイに褒められる。センセイに気持ちよくマウントさせればイイ生徒。会社ならクビになるだろう。

先日、運動部の男子が、朝すれ違うと、気をつけして深々と頭を下げて、おはようございますと挨拶してきた。たぶん野球部だ。僕は指導した。

「丁寧すぎるんだよ」

そんなのはうんざりだ。

「すみませんでした」

また深々と頭を下げられてしまった。

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