キッズリターンに見る青春の苦さ
はっきり覚えているのだが、生まれて初めて雑誌smartを買った時、少しダークな雰囲気のカッコいい男が確か、フレッドペリーの紺色のポロシャツとグレーのパンツ、そして素足にビルケンシュトックを履いて表紙を飾っていた。
それが安藤政信だった。
そこから興味を持ち、彼のデビュー作、キッズリターンを15歳の時にビデオで見た。
その映画は、僕が1番見た映画になり、そして僕の一部になった。
ストーリーは割愛するが、要するに青年の夢は大概叶わないし、大人は彼らの事は屁とも思っていないけれど、前に進むしかない、そういう事をこの映画で学んだ。
監督である北野武はお笑い芸人として頂点を極めたが、その影には膨大な数の売れない芸人がいる。
大学入試でも、オーディションでも、就職でも、恋愛でも、本当の本当に高校生のの時の自分の夢が100%叶うなんて中々ない。
そして、意外と気付かれない事だが、その様な競争の勝者は大概どこか苦渋に満ちた表情をしている。
芥川龍之介が確か侏儒の言葉で同様の内容を書いている。
また、今のヒップホップ界を代表する成功者であるウィリーウォンカ、イエローバックスでさえもなかなか思った通りにうまくいかない事をそれぞれNO SLEEP TILL、wow wow wowという作品で吐露している。
つまり、青年期の夢は大概叶わない、叶ったとしても大きな犠牲を伴う、という話なのだ。
また、大人はそんな青年たちの夢など屁とも思っていないと言うのも事実である。正直関係ないのだ。
パパ活をするおじさんたちも、パパ活女子の夢には正直関心ないし、大概の学校の教師は自分の生徒の夢や希望に関心はないし、医局の上の医師も部下の希望や覚えたい技術よりも教室の論文数が気になるのだ。
それは、マサルの思いよりもゴルフの予定が気になる組長や、シンジの試合でのダメージよりも新人賞を自分のジムから出すことを重んじているかのように見えるジムの会長と同じなのだ。
夢は叶わないかもしれないし、叶っても大きな犠牲を伴う。周りの大人は分かってくれないし、それどころか利用しようとする人もいる。
ひどい話なのだが、辛くても前に進むしかない。
その認識が出来て初めて、この映画の最後のマサルとシンジのやりとりが心に届くのだ。
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