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ねこペティREMIX#3「ぼたもち」 (エッセイ「おはぎの山」)


「ぼたもち」
Botamochi (Japanese rice dumpling)


いまだけみえる

にじのはし

きっとむこうに

かあさんが

くろくてまるい

のりものに

うまくのれたら

あえるかな


今回登場したねこ:ヅラちゃん、ワケちゃん

年齢不詳オス。
自転車置き場にいつもいる、髪型以外そっくりな仲良し兄弟。
真ん中分けがヅラちゃんで七三がワケちゃん。



「おはぎの山※」



台所でおはぎを作る隣家のおばさんの背に向かい、僕は自分で漢字が書けることを繰り返し自慢していた。

何日後かに始まる小学校生活が不安だったのだろう。大皿に山と盛られたぼたもちの横で僕は「山」の字を体全体で大きく描いてみせた。


そのころの僕は、おはぎといえばあの全体を小豆で包んだものしか食べられなかった。他の種類は全て甘くないのだと信じ込んでいたからだ。

僕にとって小学校はその食わず嫌いのおはぎに似ていた。
兄が平気で先に食べているところまでそっくりだった。
ただ、こちらは口にしないわけにはいかないのだった。


不安と期待でふくらむ胸の中、ひとつだけ決心していたことがある。
小学生になるのだから、これからは今までみたいに隣の女の子と仲良く手をつないで通うのはやめよう、というのがそれだ。


難なくその目標は達成されたが、結局それから二度と彼女と手をつなぐ機会は来なかった。



ウェブマガジン「にゃなか」掲載作品(2016~18)にエッセイを添えてお送りします。掲載順は当時の連載どおりではありません。


※一般に春は「ぼたもち」。秋は「おはぎ」と呼び名が区別される(牡丹=春、萩=秋が由来だそう)らしいのですが、幼少期の印象をもとに書いた文ですので、あえて馴染みのあるほうの「おはぎ」呼びにしています。
でも昨日近所のスーパーに確かめに行ったら全部「おはぎ」表記だったなあ……。

今回のエッセイは書き下ろしではなく、昔書いた文章の再録です。
(初出「都政新報」1997年4月22号)

こんな絵(モノクロ版)をつけて、

画/2001年制作(原題「桜餅のことを想うボタモチ」)


こちらの本に収録しています。

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