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「縮む地方」の備忘録、医師需給と社会保障改革の流れを踏まえて

 0時を過ぎて決着がつかなかったので調査会らしきものがお開きになって帰ってきたので問題整理がてら備忘録として書く、これからビールを飲み始めるので散文ご容赦。

 下敷きの議論は財政審です。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20231120/04.pdf

 一つひとつのイシューについて言えば政策的には綱引きであり、利害関係者同士が一本のロープを引っ張って白組頑張れ紅組勝て勝て言ってればそれで終わるわけですが、社会保障の観点からしますと「もうもたない」ので、どうトリアージして、何を残して何を切りますかというモードになってきたのは致し方のないことです。

 ついに駄目になったのは「もうこれ以上、現役世代に社会保険料を担わせることはできない」が「社会保障費は高齢者が増加し医療が高度化すれば自然増してしまう」ので、税投入でどうにかするか、社会保障全体を切り下げるかという割と大きな政治的意志決定が必要になります。

 実は大きな問題は、この決断を向こう2年ぐらいで済ませて具体的な社会保障改革を行わないと、かなり大きなアクシデントで社会保障がもたなくなることです。

 社保審や中医協というのはそういう社会保障の枠組みの「中の話」ですから、実はこの大枠というか大構造を固める財政審での議論のほうが重要度を増したわけです。

 専門委員にもかなり長い時間を使って議論をさせてもらい問題意識を吐き出してもらう作業も見てましたが、これはもう単純に「未曽有の事態になる可能性があるので、過去の研究の延長線上で意見を出しても役に立たない」という話になります。これは、日本医師会のような職能ギルドにおいても四病協や製薬協のような取りまとめ母体でも出るのは不足や不満の話ばかりであって、診療報酬の改定が下げになるぞとか以前に「地方での医療提供体制はもうもちません」とか「混合医療もなし崩しに認められてもそもそも人口減少している地域では身動きができません」やら「財務省が提示した改革案で地方医療過疎地域での診療報酬を10%加算といってもそもそも患者がいないので、形だけ過疎地域に立てた医療法人が遠隔診療でオンラインで患者を診る逸脱が横行するだろうから解決にならない」などといった、どのルートを辿ってもバッドエンドになってしまう状況です。

 いまのやり繰りでどうにもならないことは、社会保障や医療政策を扱う人であれば誰もが気づいていることなのでしょうが、政策的には何とかなってしまってきた途中でコロナ禍が3年あったので、一度、タイマーがストップしました。私のような計量や統計を扱う人間からしますと、どう計算しても「これは無理なんじゃないですか」という結論になってしまいます。

 さらに悪いことは、砂時計の残りが少ないのに、打てる有効な手が無いことにあります。財務省が悩んでいるのもまさにこの辺だろうと思います。

 いわば、タイタニックはまさに沈むような感じで傾き始めているのに、ワイら何でオーケストラの演奏しとるんじゃという状況であって、船が沈む沈まないという観点からすると沈まないようにするとか、一人でも生き残れるように救命ボート出すとかそういう方向にはあんまり知恵を振ることができないのです。

 そして、これらの有効な手を捻り出すには、役人や有識者がひざ詰めで話し合って結論を出すことよりも、政治的に決定をすることが大事です。

 例えば、老人の看取りに一定の線引きを置いて、消防庁(救急隊員含む)に押し付けている割と困難な救命判断を後期高齢者に関しては「一定の限度以上には措置を施さない」と判断せざるを得ないと結論付けたとしましょう。しかし、これらは財務省が決めることでも厚生労働省が省令で済ませることでもなく、政治家の判断が必要で、新法や既存法の改正が必要です。

 そのような重要な問題を、いまの岸田官邸に上げますかって話になると、みんな途端に話し合いの言葉が止まるわけですよ。だって、来年いるかどうか分からない岸田内閣に、こんな重要な判断をぶん投げていいんですかってレベルの話ですから。

 診療報酬下げの話でも、まあどう計算しても、地方の医療提供体制はかかりつけ医から地域包括ケアのような医療介護両面で厳しい状態になるのは間違いありません。多くのクリニック(病床数19以下)は潰れるでしょう。

 しかしながら、社保審で試算された、国民の高齢化や医療の高度化による医療費の自然増8,800億円は、私は試算が間違っていると思ってますが、そこを反論しても仕方がないほど「もうこれ以上は、社会保険料を国民に負担させることができない」という政治的状況から「どういう理屈であっても、診療報酬を引き下げて医療費の伸びを止めなければならない」という正論の前に崩れ去ります。

 これは財務省の陰謀どころではなく、どのように国民の貴重な税金を国益国富のために使うのかという、かなり王道で、正しい議論であって、みようによっては「いまの医療提供体制を、可能な限り何とか維持したい」と考えている私のほうが、長い目で見た社会保障体制の悪しき側面を温存しようとする国賊なのかもしれないのです。

 つまり、一つひとつの社会保障費抑制のためのロジックに関して言えば、財務省はインチキ臭い証拠で攻めてきているけど、その大枠では社会保障費の伸びを止めるために政策的にどうするかを決定しなければいけないという点で大正義です。

 ただ、先にも述べた通りこれを決断するのはいまの政権であって、ここで死ぬほど調整して「仕方がない、5月に改正した健康保険法をもう一回2025年目指して改正しよう」ってなったとして、岸田文雄さんそこにおるんかいという話に立ち戻ります。

 さらにさらに、世代間格差どうするんだとか、究極には地方の人口減少で医療インフラが維持できなくなってるぞとか、そういう問題にまで足が伸びると、文字通り、憲法第13条の国民の幸福追求権としての医療のユニバーサル性や、国家資格である医師に義務付けている応召義務の緩和も視野に入れていかなければならなくなります。これは非常に重大な問題であって、医療を維持できない自治体は国として見捨てます、そこに住む自由は国民に与えません、少なくとも平等な公共サービスを提供する義務は国家はありませんというところまで考える必要が出てきます。

 この地方が持たない問題は別に社会保障の問題だけじゃなくて、ライドシェアでも「お前、タクシー配車のことばっか言ってるけど、そもそも地元民が足として使ってきた乗り合いバスや鉄道がガシガシ廃止になってるところでどうするつもりだ」という話も含めて、電気も水道もライフラインの提供は義務とされていたものが広域連合で寄せていくと人口10万程度の都市では機能提供は採算に合わず税投入をしなければならなくなります的な問題に簡単にぶち当たります。

 つまりは社会保障問題の本質は人口構造の変容・高齢化の進展と人口減少であると同時に、国土全体に均一に公共サービスを行き渡らせることができなくなった我が国固有の撤退戦問題になります。自治体は再々編され人が住めない地域を作って国家直轄領にしないといけないし、ガス水道電気道路ネットだけでなく医療も提供できない過疎地域を作らないといけないし、高齢者の介護も生活保護もサービス提供不可能な自治体は破綻させるしか方法がなくなります。国民の財産権はどうなるのかと言っても、税金を投じて地方僻地医療のために年俸2,000万を超える求人でも医師が応募してこない問題は、国がどうあがいたって解決できんわけですよ。

 私も一連の議論に参加して後から気づいたんですが、地域で子どもが産めないのに、どうやって地方の人口減少・流出を止めるのかという問題は重大です。特に、産科と小児科はどう計算しても大事で、簡単に言えば、その地域で子どもを産み、育み、家庭を構えるにあたり、そもそも地域に産科がなければ安全に子どもを分娩できないし、子どもを育てるのに夜間対応可能な小児科が無ければ安心して暮らすことができず、子どもを教育するに当たって都市部と格差のある状況では高度教育まで受けさせる価値が地方民にはないので、必然的に地域の人口が減り、経済が駄目になって、死んでいく運命にあるのです。

 これに抗うには医療も含めたインフラをどう維持するか、そのために人口を集約しインフラの採算に合う規模まで地方都市を成長せしめるかという論点で地域再編をしなければならなかったはずなのですが、この政策に転換できる時期は2005年ぐらいまでで過ぎてしまって、いまや札幌仙台新潟広島松山あたりも持続不能なんじゃないの、ゆっくり人口減少していくしかないんじゃないかとなってきています。口では威勢よくSDGsとか言ってますが、これはもう私たちの社会が持続不能な雰囲気になっていくかもしれません。

 その点では、医療・社会保障の論点で大変なことになっているのは遅れて出てきた問題であって、野田佳彦政権から安倍晋三政権にスイッチするあたりで本当に社会保障と税の一体改革に取り組んで、消費税をきちんと引き上げ、社会保障財源を確保していたならば、この問題に関してはもう少し状況は緩和されていた可能性は否定できません。消費税に対する国民の無駄なアレルギーもあったのは、社会保障を考える上では痛恨だったと思いますが、これはもうどうにもなりません。有体に言えば、老人からも税金を取る消費税をきちんと引き上げたうえで所得減税を大きくしていれば、いまほど世代間格差は起きていなかったかもしれず、社会保障の問題について言えば安倍政権で浪費した時間は長く取り返しがつかなかったと思います。

 当の厚生労働省の偉い人が、介護保険どうすんのって困窮している会議で「国の公費負担を増やす議論も必要」とか言い出し、大将いまトリプル改定で公費負担を増やさない(=社会保障で増税は当面できない)話をしてて、介護保険制度は税方式に戻す議論にいまさらするんですかってことで大混乱するぐらいですから、これはもう政治の決断の問題じゃないのかと思っております。

 画像はAIが考えた『沈みゆくタイタニックの甲板でせっせと椅子の並べ替えをする働き者の無能』です。


神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント