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素敵なお目覚め


ヤクザの下っ端の俺は、金がない。

ヤクザなんて羽振りがいいもんじゃないのかだって?
いったいいつの話をしてんだよ。確かに昔はそうだったかもしれねえけどな、いまじゃヤクザの懐だって火の車なんだ。そりゃそうだろ、世間が貧乏ならヤクザだって貧乏にもなるさ。一部のインテリヤクザなんかは違うかもしれねえが、うちの組みてえな昔ながらの借金の取り立てで成り立ってるところなんてのは最近じゃすっかり金回りが悪くなっちまった。

そんなもんだから、俺が住んでいる部屋も築何年だかもわからねえくらいのボロアパートで当然エアコンもない。辛うじて粗大ゴミ置き場から拾ってきた扇風機があるだけだ。今年の夏は特に暑いから、マジでしんどい。ヤクザだって人間だからな。熱中症にだってなる。だが組の抗争でもねえのに救急車の世話になったとあっちゃ、メンツが立たねえ。

こういう時は体力が肝心だ。だが俺には金がねえ。
そこでだ。

取り立てがあるだろ?ああいうのは俺みてえな下っ端の役目なんだが、その時にちょっとだけ余計に取り立てるんだ。もちろん金じゃない。組の懐に入るべき金をちょろまかしたとバレたりしたら、この世界で今後生きていくことはできねえからな。しかし現物なら別だ。聞くところによると兄貴たちも若い時はそうやって糊口をしのいだらしい。

俺が余分に取り立てるのはメシだ。メシ食わせるくらいで多少優しくしてくれるんならと、わりとホイホイと食わせてくれるし、なにより後に残んねえからな。バレるわけがない。

で、まあ昨日の取り立てもそうしたんだがな。
メシはねえっつうんだよ。ふざけんな、てめえの食うメシくらいあるだろって言ったんだが、代わりにこれをって食材を出してきたんだよ。普段なら食材なんてもらってもしょうがねえから断るんだけどな。そいつが「これは本当にいいものなんで、高級品なんで」っていうからよ、まあ量もあったしこれで許してやんよっつって持って帰ってきたんだよ。

で持って帰ってきたところで俺がまともにメシ作れるわけねえからさ、とりあえず部屋の隅に置いておいてまあ明日考えるかって昨日は寝たんだよ。

で今朝だよ。なんか鳥のさえずりで目が覚めたんだよ。
鳥のさえずりで目が覚めるってなんかいいよな。よくわかんねえけど優雅そうじゃん。

ただそれが妙に喧しいんだよな。
で、まあベッドの上で起き上がって部屋を見てみるだろ。

「おいおい、どうすんだよ、これ……」って思わず言ったもんな。

ベッドから起き上がった俺が見たのは、ひたすらピイピイとさえずり続ける大量のヒヨコだったんだよ。カーテンもない窓から差し込む太陽の光と夏の熱気で一斉に孵ったらしいんだよな。

で、まあ見ての通りこういう状態なわけだ。
なかなか壮観だろ?この狭い部屋に大量のヒヨコだぜ。喧しいだろ?俺はもう慣れたけどな。あ、うかつに立ち上がるなよ、間違って踏んづけたらことだからな。

さてどうすっかな。卵だと気にしねえけど、ヒヨコになっちまうとなんか食いずらいよな。いっそ鶏になるくらいまで育てて、それで生活するか?

ほんと、どうすんだよこれ。


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