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直接伝えるには、まだ早くて

明日、私は新卒から4年と少し務めた会社を辞める。

新卒として入ったきっかけも、完全に運で、縁だったと思う。
そして、転職のきっかけもまた。

私は運が良くて、きちんと良い時、悪い時とを味わって、
お互いを忘れないようにループしている。

螺旋階段を登っているような、
波打ち際を歩いているような、
そんな感覚。



残り3日を過ぎると、もうほとんど自分メインの仕事はなくて、
置き土産のようなイラストや、データ整理、先輩のアシストに専念している。

大学時代よりも少しだけ長く過ごした会社。
辞める時は突然で、「辞めます」と言ってからは
トントン拍子で事が運んだと思う。

あぁ、呆気ないと思った。

でも、どこか安心している自分もいて、
ポンとキッカケが欲しかっただけだったんだろう。
私は卒業する日の方が嬉しかったりするのだ。



転職が決まってからは、家族や親友、大学でお世話になった先生なんかに報告をしてまわった。

ただ、ひとり連絡をしようか迷って、そのままにしていた人がいた。

2年目の時に1年間OJTとしてデザインのイロハを教えてくれた先輩だった。

1年程前に転職されてから、連絡することもなく、
別の先輩の送別会でも緊張のあまりまともに会話もできなかった。



会社で一番丁寧に仕事をする先輩。
誰よりも細かく、厳しい先輩。

私の左横で、猫グッズとお菓子の城壁から覗き見える
四角く整えられた爪と、光るピンキーリング。

私は知っている。
突き放すような言動を放ちながら、絶対に手を離さない姿勢を。

私は知っている。
近づくなと睨みをきかせているのは猫のような警戒心。
でも困っている人を見殺しにはできない慈悲深い心を。

私は知っている。
一匹狼のように見えて、実はとても世話焼き。

誰かにプレゼントを贈るのが好きで
デコレーションした手紙を必ず添える。

飽き性だけれど、ものづくりが好き。
そのワンピースもお手製だし、好きなものは深く深く掘り下げる。

誠実な天邪鬼。ツンデレのお手本。まさに猫。



そういえば彼女の前で1度だけ泣いたことがあった。
会社できちんと泣いたのはそれきりだった気がする。

私がなんのために仕事をしているのか
Webデザイナーである意味が掴めなくなった時
いっぱいいっぱいだった感情も考えも一気に吐き出して
それを隣で静かに聞いてくれた。

当時は自分の不甲斐なさと、
先輩と理想と自分の理想の乖離と
意味を見出せないもどかしさと
全てが煮詰まっていてドロドロになっていた。

それはそれは、とても不健康だった。

まるで泥の中をさまよっているような感覚。
「今すぐ逃げなきゃ」
「逃げていいのだろうか」
「逃げ道なんてあるのだろうか」

ピリピリと末端から身体が痺れていく感覚。

時計と画面と、先輩の顔色ばかりみる毎日。

今なら、「不健康だからやめなね」って言えるけれど
当時は誰にも、私自身にも言えなかった。

言えるはずがなかった。

先輩には「本音で話さないよね」と何度も言われたと思う。

当時は、割と素直に話している気でいたから
「そう言われてもなぁ」としか思っていなかったけれど
そう感じるのも無理もなかっただろうな。

自分でも本音がわかる心境じゃなかったんだ。



あれから2年経ったのか。

私は部署を異動して、少しずつ自分を取り戻して、健康的になったと思う。

それでもやっぱり先輩とは話をすることができなくて
好きなのに、怖いと思ってしまう。

どう話をしていいのかわからない。

どんな話でもきちんと聞いてくれると頭ではわかっていても
楽しく話ができている姿が想像できない。

そうしてそのまま先輩は転職してしまった。



最後の最後に、手紙を添えてプレゼントを贈ったけれど
内容はぼんやりとしか覚えていない。
大好きだったけれど、話しかけられなかったこと、
お世話になったことへの感謝、
きっと小さなカードにはそれくらいしか書けるスペースもなかったはずだ。



今手元にはDiorの小さなカードがある。
扇風機の風にのってふわりと香水が馨る。

小さくしかし規律よく並ぶ文字と
左上にペンギンのシールがひとつ。

署名がなくても、紛れもなく彼女からの手紙だとわかる。



なぜ今日だったのかわからない。

それは突然だった。

私はただ同期と最後のランチに行くはずだった。

あまりに突然だった。


暑そうだなぁとエントランスの先に見える日差しに辟易していたら
見覚えのある顔を照らし出しているじゃないか。

口からこぼれ落ちる音はスローモーション。

自動ドアと目の前に差し出された白い紙袋と
色の変わった先輩の眉。

ほんの数秒、呆気にとられて立ち尽くしてしまった。


「誕生日と転職おめでとう。」


それだけ言って、立ち去ろうとする彼女を慌てて引き止めたけれど、思うような言葉が出てこない。

ただ「ありがとう」「もっと話したくて」「でも」ばかりがこぼれ落ちる。

何年経っても彼女へのアプローチがアップデートされていない自分に呆れる。


うまく伝えられないまま、私たちはその場を離れた。


帰宅してから急いで紙袋からプレゼントを取り出す。

驚くことに2つもプレゼントがあって、
どちらも最高の贈り物だった。

思わず「これは本当に、本当のお守りでしかないじゃん!」と叫んでしまう。
それほどに、それらは強力な力を秘めたものに見えたのだ。

ふと紙袋に目をやると、持ち手に小さなカードが括られていた。

そうだ。
彼女は、そういう人だった。



そこには労いの言葉に加えて
私が本音で話をしてくれることがなかったねと綴られていた。



そうだ。
私は、そういう人だった。



私が今、勢い任せて吐き出す先は
彼女が見ることはないであろう自分のnoteだ。


LINEでもInstagramのDMでもなく、自分のnoteである。


でも、それを許してほしい。
こんなバラバラの心情を、
こんな時系列も読みやすさも無視した文字たちを
いきなり彼女にぶつける勇気はないのだ。


私は27歳になっても、
こういう時どうしたらいいのかを知らない。



***



noteに吐き出した甲斐あって、少し落ち着いてきた。


意を決して、LINEを開き、文字を打ち込む。

が、送信ボタンが押せない。


なんてったって初めてのLINE。


まるで告白のようで(ある意味では合っていて)


どんどん夜は深まっていくし…


ええいままよ!


どうか、きちんと届いていますように。


願わくば、またこの先がありますように。



P.S.
続きはもう少し先でお願いします。

直接伝えるには、まだ早くて


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