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【こんな映画でした】13.[かくも長き不在]

2022年 1月13日 (木曜) [かくも長き不在](1961年 UNE AUSSI LONGUE ABSENCE SUCH A LONG ABSENCE フランス 98分)

『中条省平の「決定版! フランス映画200選」』(清流出版 2010年)に紹介されていた一本。ようやく観ることができたが、なかなかシビアなものだった。最後に希望がないわけではないが。

 監督はアンリ・コルピ。テレーズをアリダ・ヴァリ(撮影当時40歳)、夫をジョルジュ・ウィルソン(撮影当時やはり40歳)。

 アイテムは「記憶喪失」。第二次世界大戦下の1944年、ドイツ軍に連れ去られた夫は記憶喪失の浮浪者として、その16年後にパリ郊外でカフェをしている妻の元に現れる。あまりの変わりように誰も「夫」だと気がつかない。そこからテレーズの働き掛け(オペラを聴かせたり、食事に誘ったり)がはじまり、何とか記憶を戻そうと努めるのだったが。

 ラストシーンは皮肉にも、彼にとって恐怖を呼び起こす掛け声が、一瞬、彼をして記憶を取り戻させたようだ。それは拘束された時の負の記憶である。そのため彼は一旦は止まり、両手をあげる。が、たちまち逃げていくのだった。

 最後はテレーズがまた寒くなれば戻ってくるでしょう、と言うところで終わる。ある種、あっけない終わり方である。それゆえに悲劇性が増していると言えるが。

 アリダ・ヴァリについて言うなら1921年生まれで、ここでは中年女性ということで腰回りもゆったりした主婦といった風情である。かつての[第三の男」(1949)や[夏の嵐](1954)のときのような輝く美貌といった感じではない。役柄的にそうなるわけではあるが。

 これは第二次世界大戦によるものであったが、他の戦争でも恐怖のあまり、あるいは戦傷により記憶喪失になった人たちの数は少なくないだろう。この映画は声高にではなく、戦争を否定する。反戦映画と言っていいか。
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 このコラム「【こんな映画でした】」は。――映画を観たら、何かを感じ、何かを考えます。そんなことのメモ、――それがこのコラムです。2022年 2月

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