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凸と凹な張り子 -Miyukiyo工房-

「凸凹(でこぼこ)であってもいいんだよ。
それを許容できる、それもありだよって言える世の中であってほしいというか・・・。
土人形は割とツルッとしてて、完璧な感じがあるんだけど、
私たちが作っている ”紙” の張り子のいいなと思うとこは、

やっぱりあの凸凹の間抜けなところと、言うことを聞いてくれなさそうな顔つき。笑」


2、3時間ほどお話を聞かせてもらっただけですが、お二人とも決して平坦な人生を歩んでは来ていないですよね?作りながら自分を見てたり?


「笑・・・。でこぼこだらけです。
だから張り子よかったのかもね、私たち。
分身じゃないけど、仲間作ってる感じ。自分たちの仲間。
そして仲間が仲間を呼ぶ感じ。

張り子を好きな人にあまり悪い人はいないと思っていて。
張り子は響く人には響く。みんな好きってことはなくて、
本当に好きな人だけが手にとってくれる。
あの子たちはほんとに素敵な縁を運んでくれるんです。」

取材の日、別れ際の雑談からぽろぽろとMiyukiyo姉妹から出てきた言葉でした。彼女たちが作る張り子に出会えて、好きになって心からよかったなと思えた瞬間。

Miyukiyo工房

 Miyukiyo工房は、宮崎県都城市で張り子のみを製作しているご姉妹です。
姉:みゆきさん 
妹:きよみさん  (ちなみにMiyukiyoは二人の名前のしりとり)
生まれも育ちも都城。

(以下、みゆきさんM きよみさんK )

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(左がきよみさん 右がみゆきさん)

Miyukiyoさんのインスタにはたくさんの張り子たちがいますよ!

みゆきさんが勤務されている都城市立図書館で、彼女たちの張り子に出逢いました。
(きよみさんは学校の美術講師。
お二人とも非常勤で、仕事の合間に作業を進めます。)

元々、知り合いの別の図書館スタッフさんに紹介されたのがみゆきさんでした。ちょうどその時に"世界の民族衣装”を着た張り子を、月替わりで展示されていたのです。
(他にも都城の文化や風習を表現した張り子も展示されていました。)

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(民族衣装シリーズ ↑ 写真はMiyukiyoのインスタからお借りしました)

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(左:南九州の田の神さぁ・たのかんさぁ  右:都城の大弓)


品がある表情をしており、佇まいもいい、いわゆる民芸品としての存在感だったら私は正直なところ、まったく惹かれておらず、取材したいと思わなかったでしょう。


私もこのMiyukiyoの張り子さんたちに自分を見、おおげさかもしれないけど
なんだか”出会ってしまった”ような、なつかしいような。

私「このサイズで(ものによるが、だいたい5㎝ほど)、この小ささでぎゅっと情報つまってるのがかわいいと思ったんです❤️」

M「妹が絵を描き込む人なんです。それがよかったのかもしれません。どこをはぶいても伝わるものがあるのかな?と思っていて」

きよみさんは、伝統的な油絵の画家でもあります。
油絵ですが、相当緻密に描かれるそうです。


K「いろいろためにはなっています。(油絵が)
張り子で気づきはありますね。人にみてもらうっていう点では一緒ですし。張り子製作は楽しくゆるくできていますが、がんばってわざとゆるく描くときもあります。笑」

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(入学式・・・このコロコロ感!涙)


そうなんです、この完璧ではない表情。(topのサンタクロースとかキュン)それにみんなは魅了されています。


M「先に買ってくださるお客さんの気持ちも大事なんですけど、
売ってくださいるお店の方が ”はああ〜〜!”(うっとり・かわいい!の喜びだの声だと思います)
って言ってくれた瞬間が一番嬉しいです。」


Miyukiyoさんの張り子はネット販売はしておらず、
鹿児島と宮崎の数店舗と東京1店舗(※猫モチーフ限定)のみの委託販売。
営業は一切していないのですが、お店の方から声をかけてもらい、自分たちもまたそのお店が好きになるのだそうです。
そうすると、そのお店にしかない張り子を作りたくなる、と。

うん、なんとなくその気持ちわかる気がします!



冒頭から張り子の話を進めてますがどうやって作るんだろう?
みなさん知ってますか?
失礼だけど、張り子って名前自体も存在が薄かったりしますよね?

という事で、冬シーズン張り子の準備でお忙しい中
製作風景を見させていただきました。

ざっと簡単な説明、いきます。

1、型に紙をはる

みゆきさんの作業です。
石膏粘土で固めた型にマスキングテープをグルグル巻きに。
その型にまず最初に細かくちぎった新聞紙を水で濡らして、
全体をぐるり覆っていきます。(あとでこの型をはずすので、水なんです)

型


次に多めの糊を別の新聞紙に付けて、

のり

さっきの型にはっていく。

糊付け新聞紙は5枚と決めている。
つまり・・・こういうことです。

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張り子用の紙もあるらしいが、宮崎ではなかなか手に入らない&コストを考えて新聞紙でやられています。

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紙のはり付け終わり!これを外で乾燥させてます。
ちなみにこれはダルマになります。

とても地味な作業で、意外と簡単に私にもできそう?って思ってしまうが、それなりにかたちを意識して貼らないと、タダの”張りぼて”になる。
(ちなみに時々ネガティブな意味で使われる言葉、”張りぼて”だけど、
本来は張り子のことを指すことを最近知りました・・・)

K「私がはると、きれいになりすぎる上に きっちりはりすぎて型から抜けないので そこらへんは姉にやってもらってます。」

M「この凸凹感は私がやるとちょうど出すらしいです、苦笑。
失敗するきもあるんです。乾いたときにバラバラって。。。(紙がはがれる)それはだいたい私が疲れてる時なんですけど。笑」


このお二人がお互いを補っているというか、凸と凹で
いいコンビネーションとして理想だなあとうらやましくなります。


2、型を取り出す

紙がしっかり乾いたら、中に入っている型を外していきます。ナイフで切り込みを入れて ぱかっ!と半分に割って、中の型を抜きます。

カット

みゆきさんは手が小さいのでなかなか力が入らない。ケガをしてしまうということで、きよみさんの作業です。
これはむずかしそう!試行錯誤できれいに抜くことができるようになってきたそうです。

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型を抜き終わったら、元のかたちになるよう切った部分を和紙でふさいで
また天日で乾かします。

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、下地の胡粉がけ

塗っては乾かし、塗っては乾かし。
3層するとちょうどいい厚みになるそうです。

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伝統的な作り方なら、この作業の材料は
貝殻からつくられた胡粉と膠(にかわ)を溶かしたものを使うらしいが、Miyukiyさんは同じ成分で作られている、炭酸カルシウムとチタニウムホワイトの顔料からできた、純白の地塗り剤・ジェッソ液を使っています。


K「そもそも張り子じたいがけっこう自由だから 自分たちのやり方でいいのかなと思うし、民芸自体がどんどんすたれているので、新しいスタイでやっていくのもいいんじゃないかなと。
構造としては一緒なので 張り子と言ってよいと思ってます。」

と、きっぱりときよみさん。かっこいいです。

伝統的な枠はあるけれど、Miyukiyoさんはけっこう新参者のようです。

M「でも、張り子の世界ってやさしいですよ。笑」

表現や物作りの世界でよくある、”派閥”もようなものや苦言を呈する人もいなさそうです。

話は張り子からズレますが、
例えば、田舎の ”地域おこし”など、そこに素朴さなどを売りにしようとした途端に何か変なエネルギーが生まれうごめきだす。そして別のものが動いている、というパターンをたくさん見てきました。

Miyukiyoさんはただただ、張り子とつきあっていきたいと願っています。淡々と作業を進めるお二人をみて、本当の意味での素朴さがあり、その土地の良さを表現しようとしていて「ものすごく豊かな世界」を見たようでした。

上のお二人の言葉には、
ここにたどり着くまで、張り子にたどり着くまでのいろんなデコボコな道を、いつか満ちてくる光のようなものを信じながら歩いてきた背景があります。


ちょっとまた脱線

ちょっとまた話が製作からズレます。

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姉のみゆきさんは、宮崎市のデザインの学校を卒業した後に、都城市にあるデザイン会社に就職。
しかし、家と忙しい仕事の往復でストレスがMAXになり仕事をお休みするこになる。
そんな時にきよみさんがいろんな所に連れ出したことをきっかけに、イベントを企画する方と知り合う。二人とも、元々何かを作ることが好きだったので、何か出店してみない?と誘われる。

時代はちょうどハンドメイドブームが始まった時。
最初は何も思いつかず、とりあえずデザインができるから紙モノのポチ袋とか、少し裁縫をしてブローチを作ったりとか。

売れなかったし、モノの見方が世間とずれていたりしていた。
(Miyukiyoさんたちが3年ほど先を行っていた)

モービルも作った。(が、もっとも売れなかった・・・)
とにかく作りたいっていう衝動があり、
売れる売れないというよりは作りたいという欲求の方が強かった。

お菓子に見えるアクセサリーも作って、販売する時のディスプレイも完璧にコーディネートしたが、はっきり言って二人ともアクセサリーには興味がなくて二人ともあまり付けてなかった。
致命的である・・・。

しかし!アクセサリー作りで使っていた材料が張り子につながることは、
この時は知らない。

そして・・・季節感を出そう!ということになる。
雛人形だ。
調べていったら自分たちが作りたい雛人形とはほど遠いものばかり。
”民芸品” に視点を移した。
「張り子」に出会う。

これだ。

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普通の張り子より一回り小さくした。
自分たちが思っていた以上に反応がよくて、手ごたえを感じ始めた二人は
張り子を作ることが楽しくて、ご飯を食べることも忘れのめり込む。
張り子づくり一本に。

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4、着色

素地が乾燥したら紙やすりをかけます。

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そして、いよいよメインの絵付け、きよみさんが筆を入れます。
みゆきさんが製作の過程で、癒される瞬間のひとつの瞬間です!

K「張り子の絵は引き算した絵。
これでもだいぶ落としています。
手に持っているものがぱっと見でわかるように気をつけています。」

Miyukiyo「顔を決めるのも大変。
ねずみにならなかった張り子もあります。
うまくいかないときは本当にいかないです(泣)
自分たちがかわいいと思わないとだめなんです。」


ここでも一色塗り、その上に色を塗るために乾燥させて、乾いたら別の色を塗る。何日かに作業がわかれます。

ねずみさんの目を入れる瞬間です!
(筆が細〜い!プルプルしそうです!)

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ここまでの過程でお気づきかと思いますが、はっては乾かし、塗っては乾かし、小さいのにとても手間がかかってます!

私「こんなことを聞くのはあれですが、安いって言われませんか?」

Miyukiyo「(苦笑)・・・言われますね」

(余談ですが、ここまでずっとお二人の手が写ってますがとってもきれいで器用そうな指をしていると思いませんか?)

もうひとりのMiyukiyo

二人姉妹とばかり思っていたら、実は3姉妹だったんです!
日南市で市役所の事務をやっていらっしゃる末っ子さん。
お二人が事務処理が苦手ということで
(本当に苦手そうな表情をしていました、笑)、
もう一人のMiyukiyoとして、表立っては二人でやっているけど、実は3人でやってらっしゃるそうです。

Miyukiyo「絶対ふたりでは無理です!!本当に助かってます!」
そして
 「両親が忙しかったり、小さい頃からいろいろあり、
3人で助け合ってきたので」と。


もう一つの活動

時々張り子絵付けワークショップも開いてらっしゃいます。

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意外と大人の参加者が多く、久しぶりに絵の具で色を塗る、という方も。
写真は参加者さんの絵付け。それにしてもみなさん上手・・・。

老人ホームなどの施設でもWSをやってみたい、とおっしゃってます。

これはもしかしたら私の見当違いかもしれませんが・・・
紙で作られた張り子独特の手触りは、認知症のお年寄りの脳伝達にとてもよいのでは?とふと思いました。
そのうえ、色を扱うことはさらに気持ちが高揚します。
ぜひ、無理のない範囲で様々な施設でWSをやってほしいなと思いました。


冒頭から何度か書いてますが、 Miyukiyoさんの張り子は凸凹していて、
”完璧”ではありません。表面も少しだけザラ付きが残っています。
私はそのザラ付きが好きで、触るとなんだかしみじみしてしまいます。


 Miyukiyoこぼれ話

きよみさんのパレットは卵パックです。
私は当たり前のようになんの違和感もなく、それを受け入れて見ていたのですが、
「WSなどで人前に出るときは、陶器のものを使いますけど。笑」

と説明をもらった時、はっ!この人は画家であって、油絵の時は卵パックではないはず。と思ったらなんだかほっこりしました。

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卵パックは張り子たちのストック部屋にもなります。
紙でできたパックの方が丈夫なんじゃないかと思ったんですが、それだと見えないのでやはりプラスチック製が便利なんだそうです。

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"それ" についても最初はお話に夢中になり、なんの違和感なかったのですが、撮影を始めてひいた視線で見つめたときに、疑問が大きくなりました。

「私たち長く書道をやってたので、正座にはなれているんです。
座布団? あ、すみません出さないで・・・。
畳に直に座るので、しびれてもすぐもどるんです。
絵付けはこの状態が楽で・・・。」

最初からお二人はずっと正座で作業をしていたんです。こう言っては大変失礼かもしれませんが、おしゃれでキラキラな感じで今風、という雰囲気の作業場ではありません。
(元々おじいさまが住んでおられた家をそのまま、工房として使っている。)

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これはみゆきさんがデザインした箱。
力の抜け具合が、なんだか安心しませんか?

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デザインのテクニックなど私は分からないのですが、世の中なんでもかんでもおしゃれに・キラキラになってきてて、すべて同じにように私には写り、正直少ししらけムードだったんです。

そんな時に出会えたこの張り子たち。

Miyukiyoさんの張り子はもう私の同胞とでも言えましょうか、お守りとして、自分がダメダメな時そっといい距離感で寄り添ってくれそうな存在となってくれそうです。


いただいたサポートはこれからも来双船がよい出会いができるよう、心から感謝しながら使わせていただきます!