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筋トレ中の筋電を計測してみた ~腕立て伏せ編~

皆さん、筋トレしてますか?
この数年のおうち時間の増加を受け、筋トレブームのようなものが来ている気がします。
さて、筋トレは「正しいフォーム」で行わないと効果が無い、そんな話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。フォームの良し悪しはトレーニング効果に限らず、ケガのリスクにもつながる要素とも言われています。
今回は、おうちエクササイズの基本「腕立て伏せ」のフォームによる違いを見るために、筋電の計測を行いました。
(文:筋トレ3日坊主のプロ 新人開発職K)

■筋電について

筋肉が収縮する際、内部の筋線維から電位が発生し、体にとりつけた電極に届きます。この電位は、活動に用いられる筋線維の数に伴い増減します。電極に到達した電位の大小を表すのが筋電図で、電位の大きさが波形の振幅になります。
試しに腕に電極をとりつけ、手を握る強さを徐々に強くしていったときの筋電がこちらです。

たしかに強く握るにつれて振幅が大きくなっていることが分かります。

今回の計測では、腕立て伏せで鍛えるターゲットとなる「大胸筋」に注目しました。細かな条件はさておき「波形の振幅が大きくなっていれば、より効果(負荷)の高い筋トレができている」として筋電図を見ていきます。

■計測

計測は下図のような構成で行いました。

計測構成図

電極は大胸筋中ほどにある大胸筋中部にとりつけて筋電計に接続しました。
筋電波形の収録には弊社製品の「VitalRecorder2」を用い、同じく弊社製品の「DVCap」を用いて動画の収録も同時に行いました。
カメラはノートPC付属のwebカメラを使用しました。
VitalRecorder2とDVCapは、動画と波形の同時収録も簡単でほぼ1クリックでできました。

腕立て伏せは次の4つのフォームで行いました。

①通常
顎を引いて、体はおよそ一直線にする。両手の間隔は肩幅程度。
②背中反り
顔を前に向けて背中を少し反らせる。
③尻浮き
顎は引いたままお尻を浮かせ、体を「く」の字に曲げる。
④インクライン
足を椅子に乗せる。

①が一般的に良いとされる通常フォーム、対して②と③が悪いとされるフォームです。④は通常に比べて負荷が大きくなるフォームとして比較してみました。
(※一般論をベースに実験しております。フォームの効果を保証するものでないことはご承知おきください)

それぞれのフォームで5回ずつ腕立て伏せを行い、その平均を各フォームの計測値としました。(本当はもっと回数を増やすべきですが、私の筋力ではこれが疲れずにできる限界でした…)

また、動作1回の時間を揃えるためにメトロノームを50BPMに設定し、それに合わせて動作を行いました。

■解析

今回計測したデータの解析には、弊社製品の「BIMUTAS-Video」を利用しました。
BIMUTAS-Videoでは下のように、波形と動画を並べて見たり、平均値や積分値などを自動で計算したりすることができます。

BIMUTAS-Videoの解析画面

また、動作の始まりや終わりなどの特定のタイミングを「イベント」として指定することができます。今回は「腕の曲げ始め」「腕の伸ばし終わり」をイベントとして登録し、その間を1動作としました。

イベント機能

(補足:上の筋電図を見ると動作の終わりに、一定間隔の小さな波が含まれていますが、これは胸に電極を貼り付けたことにより心拍ノイズを拾ったためです。)

筋電の比較解析では、測定する筋肉や被験者が異なったり、同じ被験者でも別の日に計測したりする際には、縦軸の正規化(%MVC:筋電をその人の最大筋力発揮時の筋電振幅で割る)によって基準を揃えた状態で比較をする必要があります。
しかし今回は、筋肉も被験者も同じで、電極の付け替えなども行っていないため、正規化は行わずにフォーム間の比較を行いました。

平均振幅

平均振幅は、ある区間の振幅を平均したもので、その区間で発揮した力(負荷)の大きさと考えることができます。
(※ここでいう力とは筋力を意味するものではありません)
平均振幅を求めるにあたり、事前の処理としてRMSやARVといった方法がありますが、今回はRMSを用いました。
*RMS(二乗平均平方根)
区間内の振幅をすべて2乗してから平均を求め、その平均の平方根をとる方法で、どれだけの区間の平均を取るかによって値が変わります。
今回は50ms間の平均を取ってみました。

1動作内での平均振幅を求めてから、それを5動作分で平均をとりました。
こちらが平均振幅をフォーム別に比較したグラフです。

グラフの通り、比較的はっきりとした結果になったのではないでしょうか。通常フォームでは293.2μVだったのに対して、悪いとされる②と③のフォームでは250μV弱と、大胸筋への負荷が小さかったことが分かります。
一方で負荷が高いと期待される④のフォームでは337.0μVと通常よりも大きな負荷がかかっていました。

悪いとされるフォームでは大胸筋以外に力が分散することで、大胸筋に対しての負荷が小さく、効果の低い動作になってしまうと考えられます。
そこで、大胸筋だけでなく上腕二頭筋にも電極をとりつけて、同様の測定を行いました。
その結果が次のグラフです。

全体的に値が小さいですが②の背中反りのときは上腕に負荷がかかっているのが分かります。
これは計測の際の体感とも一致していて、②のフォームが一番余計なところに負荷がかかっていてやりづらいという感覚でした。
今回は自重トレーニングだったので意図しない部位への負荷は小さかったですが、これがマシントレーニングで負荷が大きかったりすると思わぬケガにつながるかもしれませんね。

この結果から、正しいとされるフォームでの筋トレは余計な部分への負荷を小さく抑え、目的の筋肉に的確に負荷をかけることができるため、効率の良いトレーニングができると言えそうです。

中間周波数(median frequency)

当初見たかった結果は確認できましたが、せっかくなのでもう一つ、筋電の中間周波数にも注目してみました。

筋電波形には周波数の異なる様々な波が含まれています。
それらの周波数を代表する値(中間値)として求められるのが中間周波数です。

計測は1セット9回で3セット行いました。3セット目は7回目で力尽きてしまいました…
セットの間は5分ほどずつ休憩を挟んでいます。

平均振幅と同様に、1動作内での中間周波数を求めました。
こちらが結果のグラフです。

グラフから、セットの中で回数を重ねるにつれて中間周波数が低周波へシフトしていったことが分かります。
この要因は様々なものがありそうですが、いわゆる遅筋・速筋とも関わりがあると考えられます。

速筋と遅筋は筋線維の収縮速度の違いで分類されます。
速筋は収縮が速いかわりに、持久性に欠けます。遅筋は収縮は遅いものの、疲労しにくく長時間活動することができます。
腕立て伏せを繰り返す中で、最初は収縮の速い速筋の活動(高周波成分)の方が優位ですが、すぐに活動が減衰してしまうので途中からは遅筋の活動(低周波成分)が優位になっていったようです。

このように、セットの中では低周波へのシフトが見られたものの、異なるセット間で比較すると周波数の変化に一定の傾向は見られませんでした。
セット数が増えるごとに疲労が蓄積されセット全体の周波数が低周波数へシフトしていくことを期待していましたが、むしろセット数が増えるにつれて1動作目の中間周波数は高くなっていきました。
5分程度ではありますが休憩を挟んだことで、筋肉の疲労をある程度回復することができたのかもしれません。

この周波数のシフトと筋肉の疲労については、もっと回数とセット数を増やして計測をしてみたいところです。(そのためには筋トレ3日坊主を卒業する必要がありそうです…)

■まとめ

今回は腕立て伏せ中の大胸筋と上腕二頭筋の筋電を計測してみました。
今回の計測で見られたこととして、

・背中反り、尻浮きなどの悪いとされるフォームでは、通常のフォームに比べて大胸筋への負荷が小さかった。
・インクラインのフォームでは一般的に言われる通り、大胸筋への負荷が大きかった。
・背中反りのフォームでは、上腕二頭筋への負荷が通常に比べて大きかった。
・繰り返し行ううちに中間周波数が低周波へシフトした。

が挙げられます。

もし私の3日坊主が改善されれば、長期間の継続による筋電の変化なども見てみたいところです。
改善されなかったときは…また別の種目などで測ってみたいと思います。

■今回使用した製品

※ 製品・ブログ等に関するお問い合わせは、上記リンクページ下部の「お問い合わせ」よりご連絡ください。

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