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日本列島という時計の針を回して 九州というポジション

福岡に移住し、故郷でもある九州のにわか勉強を始めている。

先日、福岡市博物館を訪れた。例の金印を一目見るため。少し前に中学生の娘さんが見たいというので友人がわざわざ関西から出かけたという話を聞いていたこともあって。

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訪れてみると博物館の入り口におやっ?と思うような巨大ブロンズ像が4体立っている。誰の作品かと思いきや作者の名前を見ても思いつかない、アントワーヌ・ブールデル(1861-1929)というフランスの彫刻家。ロダンより20歳ぐらい若く「弓を引くヘラクレス」の作家だと知ってようやく繋がった。「雄弁」「力」「勝利」「自由」という勇ましい4体のタイトルに、気性の激しいフランス人とまだ見たことがない博多祇園山笠の男衆とはそりが合うのかなとも邪推してみたりする。

さて、金印である。教科書でも習ったことがある「漢委奴国王」(かんのわのなのこくおう)と印字された漢の皇帝から与えられたとする印。かわいい、小さいが第一印象である。印の背には蛇の形をしたつまみに紫の紐が結ばれていたとのこと。漢の皇帝は異民族にも印章制度を適用し、自らを頂点とする国際秩序に組み入れようとしたという説明。金印を巡っては諸説あり、日本の古代国家の成立、当時の中国との国際関係を考える上でも古代史家、歴史愛好家の興味は尽きないようだ。

館内は旧石器時代からの福岡の歴史が紐解かれる。案内の言葉には英語に加え、韓国語、中国語が丁寧に準備されている。コロナ前に博物館には年間1万人を超える外国人の来場者があったという。リップサービスかな?と思うような歴史記述もなくはないがバランス良く書かれている。子供の頃には地元の地理や歴史には全く興味がなく、大人になっても博物館の類にはさほど関心がなかったものの、次第に真剣に大陸とのルーツを辿る自分がいることに気づく。

最近、農産品がブランドになっている福岡市の隣の糸島半島には伊都国という古代国家があった、7世紀から11世紀にかけての博多には長崎の出島のような鴻臚館という大陸との交易、外交、文化交流の迎賓館があったと初めて知った。展示室内を近世から近代のコーナーへと進む頃には新しい知識ですっかりお腹が一杯になったことは正直に告白しておこう。

博物館で目を引いたのは常設展の中身はもちろんだが、展示室の入り口にあった時計と同じ方向に回る日本列島と東アジアの地図の映像である。福岡を中心に、日本列島、中国大陸、朝鮮半島、ロシア沿海部、台湾、フィリピンをカバーする半径2千キロの地図。文字盤の真ん中が福岡で日本列島が時計の長針のように360度ぐるり回る映像を見ながら目が釘付けになった。

以前、中国大陸を下半部に、太平洋を上半部にした逆さまの地図を見たことがある。中国からすると太平洋に出るには日本列島、沖縄、台湾、フィリピンがブロックしているように見え、現在、第一列島線と呼ばれる弧が中国側にとってもどかしく感じるだろうということが想像できた。視角が違えば物事の見え方が変わるという経験をした。

余談だが最近、偶然見たNHKのプロフェッショナルという番組でアニメーターの庵野秀明監督が現場の撮影で大切なのは視角、視角ですよと繰り返し強調されていたことが印象的だった。残念ながら監督のエヴァンゲリオンはまだ見ていない。

先の回る地図に戻る。通常目にしている日本列島を時計回りに福岡を中心に回転させ、長針の先の北海道を3時の位置に合わせると、大陸から見れば北部九州が先端になり、ここが古代から日本の主なゲートウェイ(玄関口)であったいうのが一目瞭然に分かるかと思う。

時代は大きな転換点を迎えているようである。中国の強大化で米中の対立が先鋭化し、東アジア各国は大きなチャレンジに直面している。

東アジアの国際関係の中で日本列島の先端に位置する九州というポジション、ここからどのような地域における平和や繁栄を構想できるのか、学習を重ねていきたいと思っている。

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