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二人の空気感


過去に好きだった人と、二人きりで話す機会があった。久しぶりだったので何をどう話せばいいのだろうと思っていたが、案ずる必要はなかった。二人でいれば、二人の空気感が自然と帰ってきた。ああ、こんなだったな。懐かしいな。大切だな。そう感じた。

その人といるときの自分は、他の人といるときの自分とは違っていて、特別だ。そしてまたその人も私といるときは、他の人といるときとは違うのだろう。違っていてほしい、と思う。わがままだろうか。久しぶりに触れたその空気感は、しばらくの間わすれていたものだった。

誰かと二人きりで話すことには少しの恐怖がある。だが、それ以上に好きでもある。生身の自分が人と対峙する恐怖を超えたところに、その特定の相手でないと得られない感情や感覚がある。一対一の関係を築くというのは、相手に向き合うことでありつつ、自分を紐解くことでもある。

忘れていた感覚が蘇ったとき、切なく暗い気持ちが自分の中に立ち込めた。自分にとってこんなに大切な感覚を、今までわすれていたのか。この感情は今後、この人に会わない限り、いや、会ったとしても、感じることができなくなるのではないか。自分は色々なものをこの土地に、過去に置いていくのかもしれない。

好きだった人も、恋人も、名前のつけられない関係性の相手も、友達も、家族も、みんなそれぞれに自分と相手の二人だけの空気感があり、それがとても好きでとても大切だと思う。わすれたくない。ずっと握りしめていたい。人は変わっていくけれど、変わらないものもあるのだと、それを覚えていたいと、強く思ってしまう。

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