夏の空気

久しぶりにショッピングモールに行った。
夕方に入って、簡単に回って、ご飯食べて、また回って、だいたい8時かその手前で帰ろうと入り口と同じところから出る。雨の日でもあったからか、湿気を帯びた暖かい空気に当たる。
夏らしいなと思いつつ、ちょっと不快な感覚も抱く。夏はそこまで得意ではない、あついから。
しかし、あの空気に入ると不思議と懐かしさを覚える。つられて小学生の時の花火大会を思い出す。決まっておなじ花火大会だ。

何度も夏を経験しているけれど、花火大会にも似たような肌にまとわりつく暑さがある。

高校生以降は帰り道バスの中から見えるものになったので、あの空気とは縁のない快適な印象の薄い空気の中での花火となってしまった。
これはこれで乙なものかもしれないが、私の花火大会は、小学生の時のあのわらび餅なのである。

混雑が苦手な私でも小学生の頃は家族たまに親戚と花火大会に行くことがあった。毎年ではないが、気まぐれで行きたい人がいればみんなで行っていた。
人の流れに乗りながら、並ぶ屋台を見逃さないように目を追っていく。そのなかにひっそりとわらび餅の屋台が佇んでいた。屋台というほどのものではなく、簡素に机にわらび餅が置かれていた。屋根があったか定かではない。
最初目に入ったときは何とも思わなかったが、屋台でのわらび餅という物珍しさとちょとした異質さを感じた。後から両親から何が食べたいか聞かれたとき真っ先に「わらび餅」と答えた。
そして実際に人混みに入り買ってきてもらったわけだが、今思えば、よく見つけて買ってきてくれたなあ。ありがとう。今更だけど、ありがとう。
花火が上がるなか、両親のおかげでわらび餅にありつけた私はあろうことか真っ先に熱いコンクリートの上に一粒落とすことになる。
慌てて拾い上げて口の中に入れる。汚いという言葉が脳裏によぎるが、まだかっぱつなこどもだったので許してほしい。3秒ルールが通用してたんだ。
一瞬だったとしても、温められたわらび餅が口の中でじんわりと広がる。口直しにぬるいわらび餅を食べたり、焼きそばを頬張る。
花火を見るが、あの大きい音、振動、光はかすみ、群衆の一体感も今や思い出せない。ただ一つだけ、あのわらび餅のあたたかい温度が忘れられない。


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