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大宮スーパーマーケット

この作品は、生活に寄り添った物語をとどける文芸誌『文活』2022年1月号に寄稿されています。定期購読マガジンをご購読いただくと、この作品を含め、文活のすべての小説を全文お読みいただけます。


もう少しだけゆっくりと過ぎてほしいと思うほど、時間は速度を上げ、熱を持ち、汗をかき、快活に笑い、満足気に泣き、立派に怒り、見えなくなっていく。時間が見えなくなる寸前で、その背中に向かっておい、と叫ぶと、時間は片手を上げて、結局振り返りもせずに見えなくなる。

ハルオの背中に降ってきた雪が、溶けることなく毛の先端に留まっている。家に帰ったら、玄関でちゃんと拭いてやって、ヒーターの前で寝ていいよと言おう。

「寒いねえ、肩がすくむよ」

犬はかしこい。それ以上にもそれ以下にもならない天気の話でさえ、「そうですね!!!!あ、それで、今日の朝めちゃでかいうんちでました!!」とこちらの話を全力で受け止め、次の話題まで渡してくれる。確かに今日のハルオは朝からとても立派なうんちをしたので驚いた。いつもは朝の散歩をしてひと眠りしてからでないと、お腹が動き出さないのに。「立派でした」と言いつつ、先を急ぐ。今日は大宮スーパーマーケットで年末ビッグセールが行われるためだ。新学期、お盆、年末、年始、一年を通してこれまで大宮スーパーマーケットでは何度もビッグセールが行われてきたが、最近は年末しかビッグセールをしない。経営が芳しくないのだろうか。ぼくが子どもの頃は、週末になると店前に大判焼きとか焼き鳥の屋台トラックが3台ほど並ぶことが多く、お客さんの取り合いにならないのかと子どもながらに心配したものだった。セールの開催数は減ったが、お客さんの数は昔と今とでそこまで変わっていないように思う。


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