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真夜中にスワロウテイル


真夜中に目を瞑っても、なかなか眠れなかったので、カラダの声に従って寝るという行為を諦めた。

手首辺りにスイッチがあって、OFFにすれば眠くなり、ONにすれば目が覚めるように操作できれば、便利だなと思いながら起きあがり、透明な夜の底にストンと座り、こうなれば映画かドラマを観ようと思う。

レコーダーの中を彷徨っていたら、なかなか決められなくて。それで目を瞑り、リモコンの↓ボタンを押しながら、ひとりで安定のドラムロールを口にする。「ドゥルルルルルルル。(結構リアル)ジャンッ!」と言いながら、リモコンの決定ボタンを押すと、『スワロウテイル』だった。


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この映画は岩井俊二監督の作品で、簡単なあらすじは、円が世界で一番強かった時代に、一攫千金を求めて日本にやってきた外国人達。彼らはその街を円都(イェン・タウン)と呼んでいた。しかし日本人達は、住み着いた違法労働者達を忌み嫌い、円盗(イェン・タウン)と呼んで蔑んでいた。これはそんな格差がある円都に住む円盗たちの物語だ。

娼婦のグリコ(CHARAさん)は、街で孤児となった少女アゲハ(伊藤歩さん)と出逢う。行き場のないアゲハは、何とか彼女の元で共に生活を始める。そんなある日、客で来ていたヤクザがアゲハを襲おうとした為に、グリコは彼を殺してしまった。彼女は、仲間のフェイホン(三上博史さん)達と一緒に彼を山の中に埋めようとするが、その遺体の腹部から出てきたのは、偽札の磁気データが記録されたカセットテープだった。彼らはこの円都で一獲千金を夢見て、そのデータから偽札を作り出す。そして、それぞれの運命が加速していく。


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岩井俊二監督の表現する世界はリアルだ。本当に円都が存在しているような錯覚をしてしまう。円都の片隅にある円盗の住む街は退廃的で、光の届かないアンダーグラウンドな雰囲気を醸し出している。暗く灰色のリズムを奏でる街は、社会の隠部を映し出す。ヤクザ、マフィア、ホームレス、娼婦などは円都にとってアウトサイダーな存在に焦点を当てている。メインストリームから外れた価値観で生きている彼らは、とても儚く、図太く、逞しい。久しぶりに観たこの世界観は、今観ても色褪せることなくそこにいた。

グリコはいつもキュートだし、アゲハは羽化前の蝶のように不安定だし、フェイホンは常に危ない橋を渡ろうとするし、ラン(渡部篤郎さん)はただただカッコよくて痺れるし、シェンメイ(山口智子さん)はハードボイルドだし、リョウリャンキ(江口洋介さん)は冷静沈着な思考が怖いし、登場するキャラクターたちの存在すべてが円都という欲望の街を象徴していた。そして、彼らは映像の中できちんと呼吸していた。


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彼らは円都に翻弄されながらも、懸命に生き抜こうとしているその姿はやはりとても儚く、図太く、逞しい。

観賞後に切なく漂う余韻を感じながら、私も円都にやってきた円盗になったように思えた。そして私はテレビ画面だけの明るさにくらくらしながら、夜の底辺へ潜り込んだ。











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