根本的に料理ができない。美味しいものは大好きだし、もちろん食べたいのだが、それを「自分の手で作り上げる工程」に、まったく興味が持てないのだと思う。

幼少期の記憶をさかのぼると、実家の台所で、母や父が料理をしている横をうろつきまわっては、包丁で魚がさばかれる様子や、鍋がグツグツと沸き立つ音、ただよってくるカレーの匂いなどに心をときめかせていたような気は、するんだけど。

いざ「自分が作ろう」と思うと、とたんに心がしおれる。自分が作ってもたいして美味しいものにはならない、と本能的に思っているからかもしれない。かけた労力と時間に見合った（欲を言うなら、それ以上の）美味しいものが出来上がるなら話は別だけど、そうはならない。それなら、料理好きの人が作った美味しい料理を、ありがたく頂戴する人生を送り続けたい。

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NHK夜ドラ枠で放送されていた「作りたい女と食べたい女」では、ただ「料理を作るのが好きだから」自分の作りたいように料理をする女性・野本さんが登場する。女優の比嘉愛美さんが演じており、それはそれは綺麗で、作られる料理もたいそう美味しそうなのだ。22:45から15分という放送時間帯もあいまって、見ているとすぐにお腹が空いてくる。

そのドラマのなかで、会社に手作り弁当を持参した野本さんに対し、同僚男性が「料理が作れるって家庭的、野本さんは良いお母さんになるタイプ」と発言するシーンがある。それを受け、野本さんは「ただ自分が好きでやってることを、男のための回収されるのはつらい」と述懐する。

これ、とってもわかる。一ミリも料理ができない私だけれど、わかる。

仮に野本さんが男性だったなら、「家庭的！良いお父さんになる！」とは言われないはずなのだ（弁当男子〜！ともてはやされる可能性はあるけれど）。料理、掃除、整理整頓など、暮らしを健やかに保つ系の趣味があると、瞬く間に「家庭的」とカテゴリ分けされる。

一ミリも料理ができない側の人間からすると、「料理ができない（しない）」「掃除や整理整頓などの家事ができない（しない）」だけで、「家庭的じゃない」「女子力ゼロ」の箱に入れられる。これ、どちらも「男性側から見た女性の魅力」という判断基準で、粗雑に区分けされている構図なのである。

なぜ料理ができないだけで、女子力ゼロと言われなければならないのか。ただ「やりたくないからやらない」選択をしただけで、人格否定に繋げられるのはつらい。

もちろん、人が生きていくためには栄養を摂取していかないといけませんから、より健康的に長く生きていくためには、外食・コンビニ・ウーバーイーツだけに頼るんじゃなく、自炊もしなければいけないだろう。それはわかってます。でもそこに「家庭的」とか「女子力」みたいな言葉が混入してくるのって、よくよく考えたら違和感しかないんですけど。そもそも女子力って何力なんでしょうか？ 筋肉ムキムキな人に「キャ〜！ 男子力たか〜い！」って言います？

私は、料理ができない。だけど正直「結婚するためには料理上手にならなきゃ」みたいなこと、露ほども思えない。大好きな人のために、苦手な料理も頑張る！ なんて、キラキラしたこと言えない。もっとほかに得意なことがあるはずだから、大好きな人ができたとしたら、そっちで還元していきたい。得意なことも大好きな人も見つかってないけど。

いや、料理そのものや料理好きな人を否定しているわけじゃあないんです。美味しいものを作るのが好き。そういう人がいないと私が困りますから。でも、たとえばスポーツ選手と結婚したアナウンサーに対して「過酷な練習や試合に立ち向かう夫を、栄養バランスの良い食事で支える献身的な妻」みたいな理想を、誰もが無意識に求めますよね。どうしても美談で語られがちというか、そう在るべき、それが正解！ とされるような風潮が。

それもどうなの……？ って天邪鬼な私は思ってしまうんです。もちろん支えたければ支えたらいい。それは夫と妻の間でのみなされるやりとりで、言ってしまえば「その関係性に第三者が入り込む余地」は一切ないはず。なのに周囲は美談を求める。勝手な理想を押し付ける。仮に現役スポーツ選手の妻がウーバーイーツしまくってたら、それだけでネット記事に繰り返し取り上げられるに違いない。

ちょっとした思い込みや違和感を、「そういうもんだから」ってノリだけで押し通すような世の中、ますます生きづらくなっていくばかりです。少なくとも、私は、そう思います。

だから言い続けたい。私は料理ができない。でも、それで良いと思ってる。「何よりも料理を作るのが好きだ！」と言ってくれる伴侶を見つけるために、私は主張し続けます。私は料理ができない。でも、誰よりも美味しく食べられる自信はある。料理好きの方、お待ちしてます。