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ニューヨークのデートは怖い

アッパーイーストサイドのオープンカフェでブルーのワンピースを風に揺れらし、上品な男性とラテを飲むこれまた上品なレディを見て、
「あぁ私3日連続同じパンツ履いてる、そろそろランドリーのタイミングだわ。」と思い出していた時のこと。

Facebookを通して、会ったことのない男性から今度お茶でもしないか、とお誘いがあった。

彼のプロフィールを見てみると、指揮者で作曲家。リンカーンセンターでもコンサートを行なっているらしい。

しかし、普通の人なら、Facebookで知らない人からの食事の誘いなんて、赤になる直前の黄色信号だ。しかし、自分のパンツにすら気の回らない私は、相手に下心があることなんて全く考えもせず。誘いを了承してしまった。

実際、ニューヨークで知らない人と会ってお茶することくらいよくあることだ。それは、私のようなキャリアの浅いアーティストが公演の場を得る方法は、「人からの紹介」がほとんどだから。これも、何かのチャンスにつながるかもしれない。そう思って片道2.75ドルもするサブウェイに乗り、9.5割の確率で何にもならないことがわかっていても、0.5割の希望にかけて人に会いに行くこと含めてアーティストの制作作業である、と強引に自分に言い聞かせて生きている。

補足すると、私が知るの作曲家の男性の9.5割はゲイである。だから、きっとこの人は次なる共同制作者でも探しているのかなぁ、と軽い気持ちで望んでしまった。

しかし、指定された日時は、夜8時にミッドタウンのバーである。
3時に公園のベンチじゃダメなのか、せめてウェイターのいないカフェにしてくれないか、心の中で問いかけながらも、小心者の私は指示通りミッドタウンに向かうのであった。

初めて会う彼は、悪い人ではなさそうだった。
スマホの待ち受け画面は息子。別れた元妻との子供らしい。ニューヨークでよく出会うタイプの男性である。

最初1時間は、楽しく時間が過ぎた。音楽の話をして、日本にも何回かコンサートに来た頃があるようで日本のレストランの紹介をしたりして、まぁ、ネイティブの個別英会話レッスン受けたと思えば、丸の内ランチ代くらいするカクテル飲んだことも水に長そう。そろそろお暇しようかと思ったところから風向きが変わってきた。

彼が、突然私の手を握ってきたのである。そして、つぶやく。
彼「君の手は柔らかい。」
私「(自分で自分の手を触り)いや、乾燥してる。」

彼は続ける
彼「君の笑顔は太陽のようだ。」
私「(眉間に皺を寄せる。)その割に、気分が晴れない日が多いの。」

彼「もう遅いから、僕のテスラで家まで送っていくよ。」

そして、彼は、スマホで自分のテスラが温まっていく様子を見せてくる。
恐怖だった。私を収監するための牢屋が徐々に準備されていくような様子を見ている気分だ。

日本人女性はいつもニコニコして、アメリカ人は自分に好意を持ってくれていると勘違いをしてしまうから気をつけなければいけない、とはよく言われたけれど、初対面で無愛想にするわけにもいかず、手を握られてからは恐怖で思考も止まってしまった。どうすればいい。
ようやく、私が唯一絞り出せた言葉が、

「私、夜のサブウェイを1人で乗るのが趣味だから、そろそろ行こうかしら。」

彼は、想定外の私の発言に、ただ、
「そうなんだ。。。」
と言い、私はその瞬間をついて、コートを羽織り、店から脱出した。

アップタウンへ向かうサブウェイに揺られ、ウィードの匂いのする若者たちも、サブウェイで寝泊まりするおばさんたちも、奇声を発するおじさんも、テスラに比べたら穏やかな景色の一部となり私をアッパーウェストまで運んでくれるのであった。

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