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にほんのみのる -はじめに

日本からニューヨークに戻って1週間、いまだに時差ボケに身を任せたまま太陽と出会えない生活を送っている。歳のせいにしていたけれど、間違いなくここまで長引いている理由は、前向きな言い方をすると、囚われない生き方に変えたから、ありのままをいうと、売れないアーティストだから。

あぁ、今となってはサラリーマン時代が、なんと輝いていたことだろう。
東京-ニューヨーク間を当たり前のように直行便で移動できるなんて。そりゃ、一晩寝れば疲れも取れるさ。次こそビジネスで・・・、なんて思い上がった夢も持って。あの頃の自分に行ってやりたい、JALかANAで迷えること自体、寿司屋で締めをウニにするかイクラにするかくらい崇高な悩みであると。
さらに、サラリーマンには朝起きたら行かなきゃいけない場所がある。何もしなくてもミーティングで午後の予定は埋まっていって、お願いしなくても誰かが太陽と共に目覚めることに背中を押してくれるんだ。

日本でのある夜が頭をよぎる。お世話になった前職の上司と久しぶりに飲み会。会も終盤になってきたところ、私は相談を切り出す心の準備を始める。ここまでの2時間で、会社に人が足りてないこと、上司は部下が少なくなって悩んでいること、BTSだけを生き甲斐に働いていること、がわかった。よしよし、なかなか私に追い風が吹いている。
酒も回ってきたところだ、ここは、恥も捨てて上司にお願いを・・・と口を開きかけた瞬間、上司はBTSの話をする時と同じくらい、真面目な目で私を見て話し始めた。

上司「僕は、藝大出たけど、こっちの世界に身をおいちゃった人だから。会社で働くことも経験した上で、芸術の道を選んでいるあなたを心から尊敬するよ。今日のお酒代は私が持とう。」

全額じゃないんかい!

・・・・ってところではなくて、
私は、帰れる場所を失ってしまった。

ダメだったら、戻ればいい、

とは、もう言えないところまで来てしまった。

ということで、せっかく時差ボケも治らず、深夜2時でも頭が冴えているので、日本に帰国していた理由の一つでもある、自分のオリジナルミュージカルのワークショップの話を書いていこうと思う。

題して、「にほんのみのる」。

さくらももこ先生の「焼きそばうえだ」というエッセイにあやかり、7文字のタイトルにしてみた。

2022年9月に、私のコラボレーター、ベンと一緒に書いている英語のミュージカル「ミノル」のニューヨークでの発表を終えた。その時、調子に乗って「次は東京でやっちゃう?」とノリで決めた企画により、私の日本の家族、友人が巻き込まれ、私とベンは書き直しでサンクスギビングもクリスマスも大晦日も失い、でも今までで1番日本が好きになれた気がした約2ヶ月ほどの出来事を書いていく。

乞うご期待。

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