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主役はグレン・クローズの顔。映画「天才作家の妻 - 40年目の真実」(ややネタバレ)

原題がザ・ワイフ The Wife で、主役であるその妻役はグレン・クローズ、夫はノーベル賞をもらう大作家。と聞いただけで観なくてもどういう話かわかるというもの。しかも邦題には「40年目の真実」ですからね。なのでネタバレと言うほどでもないのですが、夫の小説を書いていたのは実は・・・という話。

私のテレビドラマ好きは子供の時に父が観ていた「刑事コロンボ」が始まりで、今ドラマや映画を観ていると「こんな話、コロンボでやってたな」と思うことがままあります。「天才作家の妻」はコロンボ初期の名作、「構想の死角」と基本は同じ。コロンボでは夫婦ではなく男性二人の協力関係ですが、本当に才能のある方が物静かで前に出ることを好まず、書いていないのに作家を演じているほうが派手で人好きもするしマスコミにもちやほやされるという点も、この秘密に気がついて近づいてくる人間がいることも共通しています。コロンボのエピソードも犯人側の観点から犯罪を描くので、犯罪者の罪も最初からわかっています。

それにしてもしんみりした映画。ノーベル賞授賞式のため向かうストックホルムは寒くて暗く、じめっとしているし、夫妻に同行する息子(演じるマックス・アイアンズはジェレミー・アイアンズの息子)もものを書いていますがお父さんが評価してくれないとムクれていて景気が悪いことこの上ない。

この映画を観たのは、それまで長いことパルコブックセンターがあった吉祥寺パルコ地下二階に去年12月にオープンした新しい映画館アップリンク。グレン・クローズがアカデミー賞にノミネートされ、いよいよ今度こそは取るのでは、と言われている一応話題の映画なのに、小さな劇場はガラガラ。1980年代には「再会の時」「危険な情事」といった派手なハリウッド映画で一世を風靡したグレン・クローズ、最近は地味な作品を選んでいるよう。この前に彼女がオスカー候補になった「アルバート氏の人生」もそう言えば、グレンが演じる女性が、男社会でのサバイバルのために極端な方法に走る地味な映画でした。

「天才作家の妻」では1960年代の初め、女性がものを書いても出版界は完全な男社会。相手にもされないから作家になんかなるもんじゃない、と先輩女性作家(「ダウントン・アビー」のお母さん、エリザベス・マクガヴァン)に言われるジョーン。才能豊かなのに自分で書く夢はあきらめ、夫の作品に手を入れ、そのうち、彼女が書いて夫が編集し、夫の名前で出版するという二人三脚に。妻の方が才能があるのがつらくて浮気に走る夫、それに対する怒りを小説に昇華させる妻。

クリスチャン・スレーターが出てきたときは彼が謎解きをするのかと思いましたが、そもそも「真実」が初めからわかっているので謎解きも不要。彼が「正直に言って楽になりましょうよ」的なことをジョーンに言い、作家修行中の息子にバラしたりしますが、あの役、必要?いなくても話の進行には困らなかったと思うし、20分は短くできたのでは。それとも、夫婦二人だけの話では地味すぎるので少しは華を添えようとを付け加えたのか。

サスペンスがない以上、映画の見所は、グレン・クローズの演技のみ。というより「顔」。じーっと黙って見つめ返す顔、怒りをこらえてワナワナしている顔、孫が生まれたとの電話に出てうるうるしている顔。グレン・クローズのクローズアップ、というシャレではありませんが顔のアップがとにかく多い。ジョーンも長いこと我慢してきたでしょうが、カメラも我慢強く彼女の表情を写しだします。

コロンボの「構想の死角」のオチは、才能が無いほうが思いついた唯一のすぐれたアイディアが殺人の方法だった、ということ。

この映画にはオチがありません。結末はありますが、最後のシーンでは、ジョーンが機内で小説の構想のようなものを書き留めているノートが映ります。これからジョーンは作家として自由に書き、発表していくのでしょうか。これまで夫の名前で発表してきた名作の数々は・・・?

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