見出し画像

私が「ゲームメカニクス」とは何かを初めて学んだ瞬間

先輩ゲームデザイナーが教えてくれたこと

私が入社2年目で、新作ゲームの企画立案に参加していた時の話だ。

  • 疑似MMORPG風のシングルプレイRPG

  • 3人パーティ/ターン制バトル/ファンタジー世界観

  • 酒場にはプレイヤーキャラ風のBOT冒険者たちがいる

  • そこから2人仲間を選んで冒険へ

というゲームだった(というのは嘘で、企画内容を改変してます)。

立案者の先輩ゲームデザイナーから「毎回ちがうキャラクターを連れて行きたくなるような仕様を考えて」と言われた。

プレイヤーは当然強いキャラを選びたがるし、一度冒険にいったBOT冒険者は成長するのでまた選びたくなる。つまりパーティは固定化する。作り手としてはできるだけ色んなキャラと冒険に出てほしいので、それを促進するアイデアが欲しい。

冒険からもどったらしばらくはパーティを組めない、という制約をつけることもできるが、それはプレイヤーを我慢させているだけで楽しさにはつながらない可能性がある。

「例えば…」とその先輩が言った。

「3人パーティ制だけど4つ属性がある、とか」。

火属性の敵ばっかり出るエリアに行くことになった時、レギュラーメンバーに水属性キャラがいなかったら、"普段使わないけど水属性だから連れてってみるか”ってなるじゃん。

なるほど!

これが、私が「ゲームメカニクスとは何か」を初めて学んだ瞬間だった。

人の心を動かす論理的な歯車

え、それだけ?

すごい名言とか、すごいアイデアがすごい刺さった、みたいな話を期待させてしまったなら申し訳ありません。

でも、当時の私には目からうろこだった。

だからゲーム"メカニクス"って言うのか!

それまで私は、ゲームメカニクスとは「ゲームを面白くするための要素で、言語化が難しい、感覚的なアートのようなもの」ぐらいに思っていた。

確かにゲームメカニクスが動かすのはプレイヤーの感情だ。だから感覚的な議論になることがほとんどだ。

しかし、ゲームメカニクスそれ自体はむしろ論理的なものであり、「こういう仕組みにしたら(プレイヤーの気持ちは)必ずこうなる」といった法則・構造・機構のようなものであり、語弊を恐れず例えるなら「歯車」のようなものなんだと気づいた。

そしてゲームデザイナーの仕事とは、この「人の心を動かす論理の歯車」を設計することなのだ! と私は感じたのだった。

ゲームメカニクスは見えない

ゲームメカニクスというものは、プレイヤーとしてゲームを遊んでいるだけの時は、その存在に気づきづらい。

目に見えないからというだけでなく、そもそもほとんどのゲームは遊ぶ際にメカニクスを意識しないように作られている。「このゲームはこういう仕組みになってるんだよ」と教えてもらわない限り、ゲームに何百時間費やそうとも、自分の感情を突き動かすものの正体は見えてこない。

逆に言うと、ゲームメカニクスとはこういうものだと一度教えてもらえれば、それ以降は気づけるようになると思う。

ゲームデザイナーやレベルデザイナーとしてゲーム中の何らかのシステムやレベルを担当した人はもちろん、ゲームを作ったことがない人だって、今遊んでいるゲームはどういうメカニクスで楽しさを生んでいるのかが分かるようになる。

ゲームメカニクスを極めるのは難しい

ただ作り手としてその道を極めるとなると、これまた難しい。

例えば次のようなことを、2つ以上同時に高いレベルで実現できるゲームメカニクスを考えつくのは本当に難しい。

  • 狙った感情を強く引き起こす。

  • 何度でも遊びたくなる。

  • 作品のナラティブと親和性が高い。

  • どんな人とでも仲良く遊べる。

  • 他のメカニクスと影響しあう。

  • 画面を見るだけで何をしているか分かる。

  • 実装コストが上がりすぎない。

つまり、多くのゲームデザイナーが道半ばではあると言えるのかもしれない。私もそう。

ゲームメカニクスをどうやって学ぶのか

私が「ゲームメカニクスとは何か初めて学んだ瞬間」以降に、どんな風にゲームデザインを勉強していったかというと、次のような方法が思い出される。

  • 先輩/同輩ゲーム開発者の話を聞く。

  • 実際にゲームを作りプレイヤーの評価を受ける。

  • ゲームデザインに関する本を読む。

  • 他のゲームの事例をたくさん知る。

こうしたことで、ゲームメカニクスの引き出しが増えていく。

「こういう仕様にするとプレイヤーはこういう気持ちになる」という事例(成功事例も失敗事例も)をたくさん蓄えていくうちに、「こういう気持ちにさせたい」となった時にアイデアが出やすくなるし、「なぜこのゲームは面白くないのか」も説明できるようになる。

終わりに

以上の話が、ゲームメカニクスとは何かよくわからない、どう学べばよいかわからないという人の参考になれば幸いです。

おまけ:ゲームデザインとは

ゲームデザインとゲームメカニクスという言葉の違いが気になる人がいるかもしれません。

ゲームデザインとは、文字通りゲームをデザインすることであって、ゲームメカニクスを考えることよりも広い作業を指すと、私は考えています。

なぜならゲームの面白さがゲームメカニクス以外のもので生み出されている場合もあるからです。

しかしながら、私は「"狭義の"ゲームデザイン」という考え方でゲームデザインという言葉を使うこともあります。これもゲームをデザインするという意味で使っていますが、ここでいうゲームとは"狭義の"ゲームというニュアンスが強く、つまり「ルールとゴールとフィードバックがある遊び」のことをゲームと呼んでそれを設計することをゲームデザインと呼ぶわけです。この場合はかなりゲームメカニクスを考えることに意味が近くなります。

逆にゲームデザインを「ゲームをつくること」くらいの広さでとらえれば、ナラティブをデザインすることも、広い意味のゲームデザインだと言えると思います。しかしながらここまで意味を広げてしまうと、仕事をする際にはちょっとややこしいなと感じることが経験上多いので、私は純粋にナラティブや演出を設計する仕事を指してゲームデザインと言うことはあまりありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?