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幽体離脱 実話怪談 cw

割引あり

あらすじ

語り部(Kitsune-Kaidan)が実際に体験した幽体離脱の怪談。これまでの幽体離脱体験の中で、ハッキリと記憶に残る2つの体験を描いたストーリー。

日々の暮らしの中で起こるさまざまな不快なできごと。満員電車の痴漢被害や霊体験、ストレスの多い仕事に追われる毎日…。そんな中起こった不思議な幽体離脱体験。数々ある霊体験の中でもちょっと風変わりな分野。すべてを解明することはできないが、幽体離脱へと導かれた経緯や様子が詳しく書かれている。

最後の見解を読むことで、ご自身の体験と比べて新たな発見をしたり、未経験のあなたにも、もしかすると幽体離脱の機会が訪れるかもしれない、そんな怪談話。

はじめに

体外離脱(たいがいりだつ)あるいは体外離脱体験(たいがいりだつたいけん、英: Out-of-body experience、略称: OBE または OOBE)とは、自分の肉体から抜け出た世界を体験することである。

Wikipedia

幽体離脱ゆうたいりだつ(英:Astral Projection または Astral Travel)
という表現の方が、体外離脱という言葉よりも馴染み深い方が多いのではないでしょうか。

意識が体から外に抜け出し、宙に浮いたような状態で自分のことを見下ろしたり、ものすごいスピードで移動したり、空や宇宙を飛んでさまざまな体験をすることを、一般的に幽体離脱と表現されることが多いと思います。就寝中や就寝前、または臨死体験などを通じて自然発生することが多いようですが、誘導的に幽体離脱状態を引き出す実験も数々行われてきたようです。心理学的には解離体験であると説明されることが多いらしいです。

私はこれまでに数回の幽体離脱を体験したことがあります。夢と現実が重なり合ってはっきりとその境目が表現できないことも多いですが、今回お話しするのは、完全に目が覚めている状態での実体験です。幽体離脱を説明する仮説のひとつとして、アストラル体という意識成分が関係しているのではないかとの見解があるようです。私には専門家的な視点からの説明はできませんが、体験者の視点でなるべく詳しくお話ししたいと思います。

同じく幽体離脱を体験したことがある方、いつか経験したい方、経験したくはないけれどどんなものなのか興味のある方、興味はないけれど話を読んでみてもいいかなと思う方、全く信じていない方。さまざまな視点で読んでいただけると面白いのではないかと思います。

この怪談は恐ろしくてガタガタ震えるような恐怖の話というよりは、不可思議な次元の話だと思います。それでは、不気味な世界へとつながる扉をお開けください。どうぞお気をつけて、行ってらっしゃいませ。

注)一部不快な内容が含まれていますのでご注意ください。

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眠れぬ夜

(あー、眠りたいのに…)

体が異常に疲れていて、眠いのに寝ることができない。特に考え事をしていて頭の中が忙しいというわけでもない。ただ眠りたいだけなのだ。そのくらい疲れていた。

こんな時は何をしても無駄だとあきらめたところで、眠ることができない。不眠症というほど毎日困っているわけでもない。1ヶ月に数回、こんな日が訪れる。

仕事で体も頭も最大限に疲れている。明日も朝早く起きてまた満員電車に乗らなければいけない。そう思えば思うほど眠ることができなかった。ベッドの上でただ横になっている。左右に体を動かして心地よいポジションを探すが、なかなか見つからない。

慣れない仕事で緊張感が最高潮に達していた。新卒で気難しい法律関係の事務職についてしまった私は、ちょっとだけその選択を後悔していた。

「正直にお伝えしますが、あそこの事務所は相当難しいという声が多いです」

大学の事務局にある、学生支援課のアドバイザーの生真面目そうな男性が、戸惑いながらそう教えてくれた。学校推薦で就職が決定した。ところが、新入社員というのは私だけで、前任の女性は私に引き継ぎをしてすぐに退社した。つまり、全責任は入社して約1ヶ月目の私にあるのだ。

(あり得ない…)

とにかく気難しい先生の下で働いている。少しのミスも許されない。もしも間違えたら、嫌味と罰がやたらと続く。

「私は先生には嫌われていたけど、あなたなら大丈夫よ。頑張ってね。」

前任の女性は実に優秀に見えた。仕事がテキパキできて完璧に見える彼女が嫌われるのであれば、私が嫌われるのは時間の問題だ。彼女は的確に事務仕事を引き継ぎしてくれた。私のメモ帳はすぐにおかしなルールでいっぱいになった。

基本的な業務

・先生の出社時には完璧なお湯の温度にする(ぬるくても熱くてもダメ)。
・席に座った瞬間に朝のお茶を出す。
・ガラスのテーブルはひざまづき横から見て磨く(指紋厳禁)。
・スリッパの裏が黒く汚れていると大変叱られるので、毎朝拭く。
・観葉植物の葉は、1枚1枚ていねいに拭く(枯らすと激怒)。
・食器洗いは客人と先生のものは別洗い。
・決まった銘柄の玄米茶以外は絶対に飲まない。
・当日使用するファイルは使用時間順に右から左へと並べておく。
・先生が外出するときは、靴べら、コート、帽子、かばんの順に手渡す
・残業は1分たりとも許されない(無能の証拠であると罵られる)。
・外回りはヒールでダッシュ(スニーカーは厳禁)。
・先生や家族のプライベートも言われたことはすべてお世話をする。
・エリート候補の息子さんの友達に年賀状を出す。
・口答えも、意見も、ミスも一才許されない。
etc…

上記プラス通常業務の事務全般作業(当然ミスは許されない)
以上

とにかく、通常業務以外の部分で午前中が終わってしまうのではないかと思うほど、仕事内容が細かい。せめて2人いれば上手に回せるのにと何度も思う。

さらに、オフィス機器はすべて型が古く、コピー機やパソコンも大変機能が悪いため、時間短縮ができない。ミスをすると、罰金も発生する。今更ながら大学の事務局の人の言葉が身に染みる。

(明日もスリッパの裏を拭かなくっちゃ)

いつ確認するのかわからないスリッパの裏をひたすら半年間ほど拭き続けたある日、いつも通りに靴べら、コート、帽子、かばんの順番で一通り渡した後に、作り笑いを浮かべていた私の顔の前にスリッパを裏返して見せてきた。

「合格」

そう言って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべスリッパを私に手渡し、裁判所へと出かけて行った。

私は一人でガッツポーズをして、前任の女性に心の中でお礼を言った。

寝られない夜に、そんなことを思い出しながら、朝のお湯を沸かすタイミングを間違えないようにシミュレーションしていた。そんなことを考え出すと、嫌な記憶の連鎖反応が起こる。

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満員電車の憂鬱 cw

午前2時。

(時計を見るんじゃなかった)

相変わらず寝られない私は、さらに余計なことを考え始めた。

仕事よりも憂鬱なのは朝の満員電車だ。自宅からバス、電車、地下鉄と乗り継いで、徒歩15分から20分で職場に到着する。通勤時間が長ければ長いほど、暗い気持ちに引きずられる。

中でもいちばん苦痛なのは痴漢だ。これだけはどうしても耐えられない。痴漢の話を思い出すとキリがないので、今日は考えないことにしよう。

それから地下鉄。地下鉄が苦手なのは、ときどき得体の知れない何者かの「声」が聞こえてくることがあるからだ。満員電車は自分の意思とは関係なく、動けないまま暗い窓の外を見続けなければならないことがある。

「あー」

「おーい」

「ぎゃーっ」

そんな類の言葉が聞こえてくることは日常茶飯事なので慣れている。ところが、

「○ね」

「恨んでやる」

「○す」

このような類の言葉は気分が悪くなるので、いつまでたっても慣れることはない。

人身事故を目撃してしまった時も、大変だった。

帰宅時間、いつもの地下鉄の駅は、異様に混雑していた。一歩地下へと続く階段に足をかけると、何となく不気味な雰囲気がした。

ひとりの男性の姿が脳裏によぎった。

なぜかはわからない。嫌な気持ちを抱えながら、そのまま階段を降りてホームに向かおうとした。

ところが、辺りはさらに物々しい雰囲気で、地下鉄職員が忙しそうに走り回っている。しばらくすると、地下から警官があがってきた。もちろん私たちは地下鉄に乗ることはできず、立ち入り禁止のテープがはられている。

予定時刻:19:00

小さなホワイトボードには、地下鉄の復旧予告時間が書き出された。45分くらい待たなくてはいけない。ベンチに座った私は呆然とホワイトボードを眺めていた。

すえたような、焦げたようなツーンとする嫌な臭いがしてきた。

突然、地下鉄の入り口で頭に浮かんだ男性の姿がまた一瞬目の前に現れた。

と同時に、地下鉄のホームへと続く階段にはってある立ち入り禁止のテープの向こう側に、男性がひとり立っているのが見えた。

グレーっぽいスーツを着ていた。顔色が悪く、気分が悪そうに見えた。

次の瞬間、ホームから重そうな担架を抱えた消防隊員たちが階段を上ってくるのが見えた。担架に目を奪われているうちに、スーツ姿の男性が消えていた。

毛布をかけられた担架の上の遺体らしき大きな塊は、隊員に運ばれながら左右に揺れていた。毛布のかかっていない部分から両足がはみ出している。黒く焦げているように見えた。階段をすべて登り切った隊員が担架とともにこちら側に向かってくる。

その光景はスローモーションのように見えた。

消防隊員が地上へと続く階段へと担架の向きを変えた瞬間、その後ろに悲しげな表情で立つスーツの男性が再び見えた。

(ダメだ、ダメだ)

寝られない私は、スーツ姿の男性の感情が伝わってきそうな気がして、慌てて否定し寝返りをうった。

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本棚の上の首

目線の先には本棚がある。お気に入りの写真集や小説、雑誌が入っていて、ところどころには小物が飾ってある。

(あの本、しばらく読んでないな)

突然、部屋の中が明るくなったような気がした。まるでプラネタリウムの中にいるような感覚がした。

すると突然、

亡くなった父の顔が本棚のいちばん上に見えた。

(パパだ)

あまりにも急に現れた父に驚いた。声をかけようと思ったその瞬間、父の顔が横に倒れたと思ったら、本棚のいちばん下まで降りてきた。

(えっ、何あれ?)

あっけにとられていると、ものすごい力で左肩を何者かに引っ張られている感覚がした。そのうち、左半身すべてを引っ張る感覚に変わった。必死に右手でシーツをつかみ、ベッドから落ちないように抵抗した。

ずるっ、ずるっ。

体が左にひきずられていく。その引っ張るような力には、自分だけでは到底打ち勝てない強さだった。半ばあきらめかけた時、左側にいる父の顔がまだそこにあるのがチラッと見えた。

(もうダメだ)

激しい耳鳴りがする。

キーーン

耳の奥で高い音が鳴り響く。

それ以上抵抗しても無駄なことに気づいた私は、諦めて右手をシーツから離した。すると、布団からスッと抜けて、一瞬フワッと浮いたような感じがした。そう思った次の瞬間、ベッドから勢いよく落ちた。フローリングに落ちると痛いのはわかっているので、目を閉じた。

(あれ?)

そっと目を開けると、フローリングの上に仰向けになっている。

(痛くない)

まったく痛みを感じずに、フローリングに落ちたのが不思議で仕方がなかった。フローリングがフワフワしていて心地がよい。あんなに寝られなかったのに、なぜか眠くなってきたような気がする。

(寝ちゃダメだ)

どうしてそう思ったのかはわからないが、直感的に寝てはいけないと感じたのだ。こんなに気分がいいのに、もしこのまま眠ってしまったら、『危険』であると悟ったのだ。

眠たくて仕方がないが、力をふりしぼって左側を振り返った。そこにいた父の顔がフッと消えた。ものすごく心細くなると同時に、眠気が遠のいた気がした。

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

体に戻りたい

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