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ヤケクソカレーを炊いてみよう。

この1週間はなんだか苦しかった。

土日は出張でフル稼働して深夜に帰宅。
太古の昔に卒業したと思っていた「誰も休んでないのに自分だけ休むのは…」みたいな思考に絡め取られ、満身創痍のまま月曜から金曜まで働き続けてしまった。
休まねば、という判断もできないほどに疲れ果てていた。

そんな中で、人に地雷を踏まれ、その傷ついた心で別の人の地雷を踏みに行くようなことをしてしまい、返り血を一気飲みして自分が窒息死するみたいな出来事まで起こってしまった。

人につらくあたってしまうことが、人にそうされる何百倍も自分を傷付けることを嫌というほど学び、そうしないように慎重に生きてきたのに、それが全部パーにしてしまったような気になって酷く落ち込んだ。

不安定な大気と阪神タイガースのサヨナラ負けも、この絶望に拍車をかけた。
人生って残酷だ。

アカン。これはアカン。

狂いに狂った三半規管をチューニングする時間が確保できたこの土曜日、抜け殻のような心で、そうだカレーを炊いてやろうと思った。

こさえてやる。
じっくりことこと丁寧に煮込むカレーなんかではなく、ありったけの材料をぶち込んで、素材の密度と短時間の強火で鍋を両側から圧迫するようにして炊くヤケクソカレーを。

冷蔵庫の中を見ると、土日の出張前から時間が止まったように転がる玉ねぎ、人参、しめじのカケラ。
ごめんなぁ、ごめんなぁ、という気持ちになる。
そういえばこの1週間、胃腸が苦しく、食生活も大いに乱れていたのだった。

残りの食材を調達しに、鉛みたいな体を引き摺りながらスーパーに出かけた。
とにかく何でもいいから鍋を圧迫する材料を。
そう思いながら歩いていると、広告の品!とデカデカと主張するパプリカが目についた。

さすが夏野菜、まるまる太っているのにお安い。
赤と黄色、どちらにしようかなぁ。
ここ数日で、1番幸せな二者択一だ。
結局、赤は人参と色的なキャラが被る、という理由で黄色に軍配。

あとは追加のしめじと、1番安い細切れのお肉を買った。
カレーには野菜をドバドバ入れておけば、お肉はほんのちょっとで十分なことを、私は経験から知っている。


台所につき、耳にはイヤホンを突っ込み、調理開始。ビートルズのアビィ・ロードを流す。
リンゴ・スターが呑気な声で歌うオクトパス・ガーデンは、私の中で、至高のヤケクソソングなのである。

海の底に潜って愉快に暮らしてやる!
一生戻ってくるもんか!(意訳)

わかるよリンゴ、私も今そんな気持ち。

そんなこんなで予定通り、いっぺんに材料とゴールデンカレーとガラムマサラを鍋にぶち込んで強火でこさえたヤケクソカレーは完成した。

蠢く心の内を全部放り込むみたいに作ったヤケクソカレーはうまかった。
素材たちが、任しとき!と、夏の先導を切ってくれるような頼もしい味がした。

随分遅いお昼を終え、立ち上がる気力もなくぼんやり野球を見ていると、4番の大山がホームランを打った。

ホームランって、一瞬でクヨクヨやモヤモヤを振り払ってしまうんだ。
やっぱりすごいなぁ。
それを見て、何週間かぶりに、胃のあたりがあたたかくなるのを感じた。


今の私には残念ながら、全てを受け止めて慰めてくれる友人も、推しも、飼い犬もいない。
どんなものにも期待はしない。
自分の苦しさくらい、自分でどうにかする。

だけど、カレー、リンゴ、ホームラン。
こうやっていろんなものにちょっとずつ助けられながら、私は明日からも生きていくんだ。
そう思った。

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