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いつも大事なことを教えてくれる人は、すべからく向こう側の世界から

音楽家・坂本龍一氏が全人類の集合的無意識の深い海へと帰って行ったのは、2023年3月28日だった。
訃報が全国に知らされた4月2日、その5日前のこと。

坂本龍一(1952-2023)作曲家、編曲家、ピアニスト、音楽プロデューサー。

3月28日、この日私は、彫刻家・流政之氏の綿密な調査・取材のために、滋賀・大津の石山寺にある数寄屋建築家のお宅に訪れ5時間近く話を聞いていた
もうすでにこの世にはいないある芸術家の人生のことを話している、その時、坂本龍一さんは現実世界の向こう側へ、巨大な深い海へと旅立ったのだろう、と想像する。

流政之「雲の砦」1975 /アメリカ・ニューヨーク 
ワールドトレードセンター前広場(現存せず)

私が話を聞いていた流政之さんも5年半前の2017年7月7日に、向こう側の世界に旅立っている。生前、一度も会うことがなかった芸術家だが、不思議なことに、数々の偶然と無数の縁のつながりで、私はこの彫刻家・流政之と正面から向かい合うという縁とつながりを宿命的に得ることとなった。

「流政之展 -生誕100年-」KOICHI FINE ARTS 2023年2月

私にとって、極めて重要なことを教えてくれる人物は、ほとんどと言っていいほど、向こう側の世界へと旅立っている
つまり向き合うべき対象となるその人は、もうすでにこの世にいない。

私がテレビ番組・ドキュメンタリーや、スタジオ・トークで取り上げるアーティスト・作家の大半は「物故作家」と呼ばれる、すでに何年か前、数十年前、あるいは何百年も前に亡くなった人であるケースが多い。

生放送の番組の演出デスクをしていた時は、何度も文化人・芸能人の追悼特集のために、一夜漬けでその人物を調べ上げ、大量のアーカイブ映像を見直した。

そしてまた運勢鑑定時の陰陽師としても、親・祖父母、祖先の人物像を生年月日から読み解くとき、すでにこの世に生きていない人の運命をあらためて占い・見立てていくという経験をここ数十年続けている。

「ダムタイプ|2022: remap」/第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展  2023年2月25日[土] - 5月14日[日]まで、アーティゾン美術館

取材・調査を進めていると、その人物像が立ち上がり、
まるで、その亡くなった人が目の前に座って、対峙するというような感じになることが度々ある
ジョルジュ・ルオーも、エゴン・シーレも、グスタフ・クリムトも。
古くは、ミケランジェロや、ノストラダムスや、千利休や、尾形光琳も。
グスタフ・マーラー、グレン・グールドも。藤田嗣治、岡本太郎も。
赤瀬川原平さんも、安西水丸さんも、なかにし礼さんも、元永定正さんも・・・。

「ダムタイプ|2022: remap」/第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展  2023年2月25日[土] - 5月14日[日]まで、アーティゾン美術館

長年生き続けた肉体から魂が離脱する時、激しい痛みを伴う。
人の脳はその激痛と衝撃を緩和させるため、幻覚と安らぎをもたらせてくれるというが、これまで現実世界に強く生き続けんとしてきた意識と肉体は、その引き戻しとのせめぎ合いで悶絶する。

私にとっていずれ重要な存在となるであろう芸術家・坂本龍一さんも、
亡くなる一日二日前は「もう、いかせてほしい」と懇願するほど苦しかったという。

「ダムタイプ|2022: remap」/第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展  2023年2月25日[土] - 5月14日[日]まで、アーティゾン美術館

私は二年前の父が亡くなる直前に、その現実と冥土の境界線での対話を試みた。父に向こう側の世界へ渡ったところから(極めて直観的な知覚ではあるが)教えてもらえることもできた。

いつも大事なことを教えてくれる人は、すべからく向こう側の世界から

いつも大事なことは、全て向こう側の世界へ行った人から教わってきた。
現実世界を生き抜き、あるいは志なかばでも、あちらの世界へ渡った人からこそ彼ら彼女らは、今を生きる私に向かって、強烈なエネルギーで何かを伝えようとしてくる。

そのことを受け取り、送り届けるのが”自分なのだ”ということを、私は確信した。私にとっての主要テーマの一つが、この「不在の霊性」であることは間違いない。

坂本龍一氏の波動に、最後に触れることができたのは、
2023年2月24日、アーティゾン美術館での
「ダムタイプ2022:remap」の報道内覧会。(写真はその時の模様)

坂本龍一さんはDUMB TYPE 2022のメンバーとして名を連ねています。
「ダムタイプ|2022: remap」/第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展  2023年2月25日[土] - 5月14日[日]まで、アーティゾン美術館

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