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【ショートショート】貫けないなら優しくしないで


「相談があるの」

「どうした? 珍しい」

いつもふざけたように話す彼も、真面目なトーンで答えてくれた。

「女も戦わなくちゃいけないと思う?」

「いいや」

彼は間髪入れずに答えた。意外だった。

「あたし、もう戦いたくないの」

必死に抑えた声の震えは、伝わってしまっただろうか。

「ごめんなさい。明日も舞台なのに。でも、どうしても貴方に聞きたくて」

「いいよ。どうせ家で寂しく飲んでるだけだから」

電話越しに、ライターを擦る音。

「戦場に立つのは男だけでいいんだ。どんなに強い女でも、戦えば傷つく。好きなこと、やりたいことをやって入れば花が咲く。女の笑顔が見たいから、男は戦場に立つ。それでいいんだよ。戦うな」

こんな話を公の場で話せば、もしかしたら怒られるかもしれないけどと笑う。少し引っかかるような言い方だけれど、今はただ、戦うなという言葉に救われた。

「うん……ありがとう。よかった、貴方に聞いて」

彼はまた、ふざけた話し方に戻った。馬鹿なようで、無神経に思えるけれど、誰よりも人を見ていて、気遣える人。

「今月はの演目は、何をやっているのだったかしら。歌舞伎座?見に行かなきゃね」

「いや、南座。四谷怪談のお袖なんだ。久しぶりの女だよ」

「そう。中日にでも行こうかしら」

「タナカコーヒーのチョコレートパフェ、頼んでおこうか」

ダメ出しが怖いなと笑ったあと、考えすぎるなよと言って電話を切った。
彼の優しさと、夜更けの急な電話に出てくれたことに免じて、私が好きなのはミックスジュースで、チョコレートパフェが好きなのは、宮川町の舞妓ちゃんだということは、言わないであげた。


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