清松

清松(キヨマツ)と言う者です。 思いを形にして残しておける場はないかと、ここに辿り着き…

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清松(キヨマツ)と言う者です。 思いを形にして残しておける場はないかと、ここに辿り着きました。 ジャンルは小説です。少し長めの1つのお話を、こちらで書かせて頂こうと考えています。

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はじめまして(自己紹介)

はじめまして。清松(きよまつ)と申します。 思いを文章という形にして残したいと考えていて、それが出来る場所を探してnoteに辿り着きました。 とても簡単ですが自己紹介をしようと思います。 昭和の終わりの方に生まれた、40代女性です。 数年前まで外で働いていましたが、体調を崩してしまい、今は主婦をしています。 文章を作品として表現する事に関しては、実は初心者です。 ただ、小説を書いた経験は人生の中で一度だけあります。 昔、とある放送作家の先生のもとで少しだけ文章書きの勉強

    • 【小説】遠い日の飛行船 #4-4 終わり行く一日

      黒汐スカイスポーツ公園は、市街地から車で約20分くらいもかかる。奥地にある秘密基地のようだ。 係留地へと戻る頃には、時刻はもう17時を回ろうとしていた。 夜勤の人と交代の時間が過ぎていたそうだが、橋立さんは私達を待っていてくれた。僕からの提案ですから最後まで僕に案内させて下さい、と彼は微笑んだ。クルーと言うのは本当にもてなしのプロなのだと感じる。 念願のゴンドラに乗せてもらう事が出来た。 前列にはシートが2つ。パイロットは左側の席に乗るらしい。後部座席はフラットで、2人並ん

      • 【小説】遠い日の飛行船 #4-3 デート?

        「くろしお食堂」と言うこのお店は、少し小さめの和風ファミレスと言った感じの雰囲気だ。ここは、SHUNさんの行きつけなのだと言う。 マグロの漬け天丼、と言うのが黒汐町の名物らしい。濃厚な甘辛ダレの絡むマグロ天の乗った丼を、私はあっという間に平らげてしまった。空っぽだった胃が満たされ、全身に力が漲っていくようだ。 食後のほうじ茶を飲みながら、改めて状況を再確認する。 何故私は今、知らない町で、初対面の(厳密には違うが)男性と2人でご飯を食べに来ているんだろう……? あまりにも色

        • 【小説】遠い日の飛行船 #4-2 まさかの出会い

          はっ!と、思わず甲高い声を出してしまった。この静かな場所で、近づく足音にも気が付かなかったなんて。 「あっ、すみません。驚かせてしまって」 すかさず謝るその人物は若い男性で、赤いウインドブレーカーが腰に巻き付けられている。 まさか……。 「いえ、こちらこそすみません。あ、あの……もしかして、SHUNさんですか?」 勢いで言ってしまっていた。赤いウインドブレーカーだからといって本人だと言う確証などないと、頭では理解していながらも。 目の前に立つその男性は、私の言葉を聞いて明らか

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        はじめまして(自己紹介)

          【小説】遠い日の飛行船 #4-1 黒汐町

          翌朝9時頃、地図のコピーとメモを持って家を出た。私の車には、カーナビなんてものは付いていない。付いていたとしても使いこなせないし、おそらく使わないと思う。 例えば夜になってしまったとか、道を間違えていつの間にか東の果てまで来ていたとか、そんな事があったって全く構わない。私は1人だ。誰にも迷惑をかける事はない。無事に札幌に戻り、月曜日にまた仕事に行く事が出来れば、それで良いのだから。 葵さんや山上係長には、黒汐町へ行く事は言っていない。また笑われるからではない。特に言う必要

          【小説】遠い日の飛行船 #4-1 黒汐町

          【小説】遠い日の飛行船 #3-2 冒険への道標

          翌週の月曜日、例の稲田部長と言う人が職場にやって来た。6月中にこちらに来る予定だったが、業務の兼ね合いで延期になっていたらしい。 一日の仕事を終えて販売員が詰め所に集まる頃に、紹介があった。 「初めてお会いする方もいらっしゃいますね。部長の稲田貴広と申します。2週間ほどこちらにお世話になります」 とても丁寧な口調。綺麗な声。稲田部長は、山上係長の言ったとおりで見るからに優しそうな人だった。背が高く、全体的にスラっと細長い印象の人だ。 「みんなに話していたとおり、稲田部長にはそ

          【小説】遠い日の飛行船 #3-2 冒険への道標

          【小説】遠い日の飛行船 #3-1 突然の別れ

          私はドライブは好きだけれど、決してアウトドア派というわけではない。と言うか、人と関わる事がそもそも不得意だ。一歩外に出れば、それだけで誰かと話さなければならない確率がぐっと上がる。 ドライブは、車の中にさえいれば人と話さなくても良い。これは私に最適の趣味活動だった。人と関わる事無く、様々な景色を楽しむ事も出来る。友達がいないわけではないが、ドライブをする時は基本的に1人がいいと思っている。移動式・自分だけの自由な空間。道を間違えようが、急に予定を変えようが、誰に迷惑をかける

          【小説】遠い日の飛行船 #3-1 突然の別れ

          【小説】遠い日の飛行船 #2-3 着陸

          向かい側は、人の手で創り上げられた公園。こちら側は、きっと元々は手付かずだった雑草だらけの野原。つい先日まで私はここを知らなかった。今ではこの荒地が、自分にとって戻ってくるべき場所という気さえし始めている。 岩水海岸公園の係留地には、見学客らしい人は1人もいなかった。飛行船がいないのだから、それもそのはずだろう。 そういえば、と、あのSHUNというらしい男性の事を思い出す。あの人は今日は来ていないようだ。入り口から係留地全体を見渡してみる限りでは、どこにも姿は見当たらなかっ

          【小説】遠い日の飛行船 #2-3 着陸

          【小説】遠い日の飛行船 #2-2 飛行船と子供達

          次の土曜日、私はまた飛行船を見に出かけた。 この日は風もなく晴天。車を走らせ、市街地方面へと続く大きな橋に差し掛かった所で、遠く正面の空に飛行船の姿が見えた。 居たぁ! と、思わず叫んでしまう。飛んでいる姿を見たのは、販売先の歩道で見つけた時以来だ。あれからもう2週間近く経っている。タイミングと、市外にもいくつかルートを持っている事もあってか、仕事中に見かける事はあれ以来なかった。 今日は中心地よりは西側の方を飛行しているようだった。車で追いかけるには、街中よりも都合が良い

          【小説】遠い日の飛行船 #2-2 飛行船と子供達

          【小説】遠い日の飛行船 #2-1 ネットデビュー?

          普段ネットと言うものはあまり見ないが、この時ばかりは見てみようという気になった。 動画投稿サイトで、飛行船SS号の動画を検索してみる事にした。 調べてみると、全国各地で撮影されたらしい動画がたくさん出てきた。 適当に目についたものを再生してみては、様々なロケーションで撮影された飛行船の姿に魅了された。都会の空を飛行しているものもあれば、桜や紅葉の山をバックに飛んでいるものなどもある。一般の人が撮ったものだろうけれど、どれも心が躍った。 私が強く惹かれたのは離着陸の映像だ

          【小説】遠い日の飛行船 #2-1 ネットデビュー?

          【小説】遠い日の飛行船 #1-3 週末の係留地

          あれから3日が経った。 仕事の後に「係留地」へと走ったという話を聞いた葵さんは、最初は例の通りニヤニヤとしていたが、想像していたよりは私を茶化さなかった。 少なからず、私の本気度が伝わったのかもしれない。 情報と道順を教えてくれた山上係長には、お礼に缶コーヒーを差し入れた。たいした事してないのに……と恐縮していたが、係留地に辿り着けたのは係長のお陰だ。 私は機械物にとても弱く、スマホも電話やメール以外の機能に手を出す事は基本的にない。ネットなどは、どうしても使用する前に苦

          【小説】遠い日の飛行船 #1-3 週末の係留地

          【小説】遠い日の飛行船 #1-2 「係留地」へ

          その日の夜、販売員の詰め所で、私は葵さんに飛行船の話をしていた。ちょっと興奮気味に。 「なんでそんなエキサイトしてんのさ。子供か。ウケる」 「だって、まさか飛行船が飛んでるなんて」 一日の売上金を数える私の手は、完全に止まっている。 仕事を終えて戻って来た販売員が集まる詰め所は、15畳ほどの広さ。 中央に焦げ茶色の会議用テーブルが並べられ、販売員はそこでその日の売上金の計算や、発注書の作成などを行う。 「札幌の街中じゃ、時々見かける事があるよ。宣伝になるんだろうねぇ。今年

          【小説】遠い日の飛行船 #1-2 「係留地」へ

          【小説】遠い日の飛行船 #1-1 再会

          何本かの蛍光灯が薄ぼんやりと光る倉庫の中で、私は個装になったパンを仕分けていた。 ポップな白文字で「手作りパンのラビット」と書かれた赤い番重に、慣れた手付きでパンを並べて行く。食パン、あんぱん、クリームパン、バターロールやクロワッサン。自分なりの定番の位置へと並べる。 もう一つの番重には、菓子パンや調理パン。パイ生地の上に熱したフルーツを乗せたものや、メープルシロップの練り込まれたパン、目玉焼きを乗せたトーストや、練乳を使った生地でハムやレタスをサンドしたもの等々…… 今日

          【小説】遠い日の飛行船 #1-1 再会

          【小説】遠い日の飛行船 -序章-

          衝撃、歓喜、高揚、そしてほんの少しの恐怖感。 父の手をしっかりと掴んだまま、首がちぎれんばかりに見上げたその視線の先に、それは浮かんでいた。 「春琉(はる)、あれは飛行船って言うんだよ。珍しいなぁ。こんな所で見られるとは」 父が教えてくれた。 自宅前にある小さな空き地で父とキャッチボールをしていた、土曜日の午後。空の上に突如現れた謎の物体は、小1だった私の心を思いっきり鷲掴みにした。 青空に浮かぶ白い楕円形の大きな風船のようなそれには、青い色でアルファベットが書かれているの

          【小説】遠い日の飛行船 -序章-