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陶芸の流通のはなし

こんにちは。最近会う人にnote読んでるよ。と言ってもらうことが増えてそれが若干プレッシャーになっているので、たまにはバカなことを書いていかなければなと思っている今日この頃です。

でも今日もまたわりと真面目な話で、陶芸の世界の流通の話を書きたいと思います。陶芸をしている人が器をつくったとして、それをお客さんに届けるためにはどんな道を通るのか。という話です。

これは、大きく分けると2つの道があります。

1.直接届ける
2.だれかを通して器を届ける

ざっくりした分け方でいうと、まずこの2つの道に分けられます。ではそれぞれ順に説明します。

1.直接届ける

ことばの通り、作り手目線で言うとお客さんに自分の工房やショップに直接来てもらって直接お金のやり取りをして直接買ってもらうというやり方です。

とってもシンプルでわかりやすい道ですが、作り手さんでこれをしている人は実は結構少ないです。(部分的にはしているが、メインストリームとしてはあまりしていないという意味です。)

その理由は人によって十人十色でしょうが、僕が個人的によく聞くのは「制作の邪魔になる」という声です。「集中してつくっているときにお客さんが来ると制作に集中できない」というのが主な理由だと思います。

ちなみに、僕はトキノハというお店をしていて、今でこそ僕が接客に出ることは少なくなりましたが、オープンして5年くらいはスタッフもいなかったので制作しながら店番もしていました。

お客さんが入り口を通ると、工房にベルが鳴るようにしているので、ベルが鳴ると素早く手を洗ってお店に出る、というやり方です。(ちなみにこれは今もそのままです。トキノハでは専属の店舗スタッフはいません)

これはありがたいと言っていいのか分かりませんが、トキノハは交通の便の悪いところにお店があり、そして当時は特に存在自体ほとんど知られていなかったのでそこまで制作の邪魔になるという感覚はありませんでした。要するに制作の邪魔になるほどお客さんが来ていなかったという意味です。

ちなみに今も専属スタッフを雇っていないということは、今でも状況はそこまで大きくは変わっていないということです。

もちろん、今日絶対に窯づめしなければいけないという日に限ってたくさんお客さんが来て...ということもありました。いつも暇なのになんで今日に限って...みたいな。そういうときはお店を閉めてから夜中にかけて作業をしていました。

なので、制作の邪魔になる云々に関しては、「場所」と「人気」次第かと思います。駆け出しの若手の頃であれば、表参道にお店があるとかでなければ実は正直そこまで心配しなくてもそんなにお客さんは来ません。イベントなど数日に集中させることならまだしも、毎日安定的に人を呼び続けるというのは想像以上にかなり大変なことです。

2.だれかを通して器を届ける

ほとんどの作家さんや窯元さんはこのやり方で器をお客さんに届けていると思います。

では、「だれか」とはだれなのかですが、要するに「ギャラリー」や「器のお店」のことです。他にも「雑貨屋」や「ライフスタイルショップ」など最近では器を扱う小売店はとても多いのですが、それらすべてのことを指しています。

「作り手」は、そういった「だれか」に器を届けます。

そして「だれか」が「お客さん」に器を届けます。

ほとんどの作家さんはこの流れで器を流通させています。

作り手目線でのこの流通の最大のメリットは、お客さんとのやりとり、つまり販売することを「だれか」に任せることで自分はつくることに専念できるということです。

また、自分の中で憧れのショップやギャラリーなどがあるとすると、そこに自分の作った器を置いてもらえる、あるいは個展を開かせてもらえることが一つの目標という人も多いはずです。

ちなみに、個展などでギャラリーに作家が直接立っているときには、作り手から直接器を買っているような気持ちになりますが、

実際は「作り手」→「ギャラリー」→「お客さん」です。

お金の流れは「お客さん」→「ギャラリー」→「作り手」です。

この誰かに売ってもらうという仕組みは、つくることに専念できるというのが最大のメリットなのですが、個展の場合は作り手がギャラリーに立たなければいけないのでちょっとその辺りが実は微妙です。

また、お金の話でいうと、「だれか」に販売を代理してもらうということは、当然ですがそこに販売手数料が発生します。

この販売手数料はギャラリーやお店によって設定が違います。

陶芸の業界でいうと、手数料はだいたい40%〜50%の間です。

要するに、10,000円の器をギャラリーを通して売ってもらうと4,000円から5,000円くらいをギャラリーに販売手数料として支払うということです。

つまり、個展で100万円分売れたとしても、実際に作り手に入ってくるのは50万から60万ということです。

この販売手数料を安いと思うか高いと思うかは個人個人の感じ方です。

言いたいのは、「だれか」を通して売るということはそういうことだ、ということです。こういう販売手数料のことを理解した上での価格のつけ方が必要になるという意味でもあります。

また、この「だれか」の話のなかで知っておいたほうがいい話として、問屋さんを通した流通があります。

問屋さんとは何かというと、「小売店」と「作り手」の間を取り持つ存在です。

「作り手」→「問屋さん」→「小売店」→「お客さん」

という流れです。

僕は独立してしばらくは個展と並行して問屋さんとの取引を中心に収入を得ていました。

問屋さんは全国の小売店をたくさんもっています。なので、例えば若手の作り手が作った器があるとして、それを「こんな器がありますよ」という提案を一気に何十あるいは何百店舗にもできます。

そのなかの、例えば10のお店が取り扱いをしたいということになるとします。

それぞれのお店が5枚ずつ器が欲しい言っているとすると、

5枚×10店舗で50枚の受注ということになります。

問屋さんは、小売店からリピートで注文があったときにすぐに対応できるように、50枚の受注に対して作り手に60枚あるいは100枚の注文をし、在庫を持ちます。

作り手は、問屋さん一件との取引で一気に100枚という大きな数の仕事を受けることができたことになります。

かなり乱暴な説明ですが、これが問屋さんとの取引です。

若手の駆け出しの頃で、なかなか仕事がないときに、この問屋さんからの大きな数の注文はとても助かりました。

以前のnoteでも書きましたが、ろくろがうまくなるためには数を作る以外に道はありません。

ぼくは、問屋さんから定期的にまとまった数の注文をもらうことでろくろの技術を少しずつ高めていきました。今でもとても感謝しています。

この、まとまった数の注文を安定的にもらえるのが問屋さんとの取引の最大のメリットです。

ただし、ものごとには常にメリットとデメリットが共存しています。問屋さんとの仕事にももちろんデメリットはあります。

問屋さんとの取引での最大のデメリットは、作り手に入ってくる金額の割合が低いということです。

具体的な数字でいうと、上代に対して25%という数字でぼくは取引をしていました。

小売店で5,000円で売られている器があるとします。

作り手であるぼくの取り分は、その25%の1,250円です。

この書き方をすると、まるで問屋さんが75%を取っているように聞こえますがそうではありませんのでご注意を。

問屋さんも25%で小売店に卸しています。

具体的にいうと、

問屋さんは1,250円で仕入れた器を2,500円で小売店に売ります。

小売店は2,500円で仕入れた器を5,000円でお客さんに販売します。

倍になって、また倍になる、という感じです。

もちろん、問屋さんの全てがこの掛け率でやっているわけではありません。ぼくがつい最近まで取引をしていた問屋さんは25%ではなく45%での取引でした。その代わりに在庫は持たないという問屋さんでした。

在庫をだれが持つかというのは、だれがリスクを負うかという話とほとんど同義です。そして、リスクを多く抱える方がリターンも大きくなるというのが基本的な原理です。

そういう話の流れで「委託販売」という言葉も知っておいたほうがいいと思うのでついでに書いておきます。

ある小売店から、器を取り扱いたいという話があったとします。

そのときに、色々な取引の条件をすり合わせるのですが、その際に「委託」か「買取」なのかは条件のなかでとても大切な項目です。

「買取」というのは、文字通り、小売店が器を買い取ってくれるということです。作り手は、小売店に納品し、請求書を発行します。要するに、渡した時点でお金をもらえることが確定しているということです。

それに対して「委託」は、作り手が小売店に器を納品した時点では請求書を発行できません。小売店で器がお客さんに売れときにはじめて決められた額がもらえる。という流れです。

要するに極端にいうと、いっぱい納品して陳列してもらっても、一つも売れなかった場合は永久にお金はもらえない、ということです。

個人的な話でいうと、ぼくは委託販売はあまり好きではありません。なのである時から全てお断りをするようにしました。

ただ、この委託販売にもメリットもデメリットもどちらもあります。

デメリットは、いつお金が入ってくるのか計算ができない。ギャラリーがルーズな場合、毎月の売上報告がなくなり、陳列されているかどうかすら分からない状況になりうる。ということです。ぼくは特に報告がなくなることに対してすごく嫌な思いを何度もしたので、あるときから全てお断りすることにしました。

メリットは、思わぬ臨時収入のようなかたちでお金が入ってくる。新作の器ができた際に入れ替えなどを提案しやすい。駆け出しの頃などにお試しのような形で取り扱ってもらいやすい。というところでしょうか。

他にも、買取の場合は売れ残ったときにセールなどをされる危険がありますが、委託の場合は基本的に好きなときに引き払える。などなどメリットとデメリットは個人の考え方次第です。

ちなみに、今書いていたことは常設での取り扱いに関してです。

個展なども売れた分のパーセンテージをもらうという意味で委託販売ですが、期間が限定されているので、売上報告がなくなるというリスクもないし、定期的に新たなことにチャレンジする場をつくるということはとても大切だと思っているので、個展というかポップアップ、フェアに関しては今後もやっていこうと思っています。

とまぁ結構長くなってしまいましたが、実は結構削って削って書いています。

これから、自分でつくったものを流通させていきたいという人は、現状こういうルールで取引が行われているということは知っていて損はないはずです。

ただ、こういう話はあくまでも作りたいものがある程度作れるようになってからの話です。若い人でこういう話やマーケティングとかSNSでの発信とかにとても興味をもっている人とたまに出会います。

それはそれでいいのですが、で、どんなものを作ってるの?と聞くと

肝心の「もの」ができていない人がいます。

いやいや、先にそっち。ものがないのに先にマーケティングとかが先行してどないすんねん。

ってのはよくある話です。

ただ、知っていて損はない。100のうち99はつくること。1くらいかな。たまに気分転換にちょっとくらいこういうことも勉強したらいいかもです。

そんな話でした。



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