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偏った4000文字:映画の話2018

 昨年の暮れ公開の映画は『スイス・アーミーマン』(ファンタスティックなヒューマンドラマ。無人島に漂着した男が死んだダニエル・ラドクリフに飛び乗って無人島から帰還を果たす)や『シンクロナイズド・モンスター』(ファンタスティックなヒューマンドラマ。酔ったアン・ハサウェイの自意識が怪獣と化しソウルの街を破壊する)など、地獄から来たみたいな有象無象のオンパレードでしたが、年明けからはビッグバジェット/話題作の公開が相次ぎ、上に挙げたような僕好みのワンアイディア/低予算の作品は鳴りを潜めた感があります。

 この記事では2018年公開映画の中からいくつかオススメの作品を紹介しますが、いずれも全国規模の上映は終了してますので折を見てTSUTAYAなりアマゾンなりでどうぞ。ちなみに2018年最初に劇場で見た映画は『最後のジェダイ』の2回目です。惑星クレイトの決戦シーンは何度見ても胸の熱くなるものがあり、僕はおおむねそうした音響や大画面による効果を求めて劇場まで足を運びます。

1.ザ・ヴォイド

 ド陰惨映画大賞2018。その名は『ザ・ヴォイド』。ソフト化に伴い多少邦題が変わったようです。詳細は各自ググってください。R-18指定ですが、シェイプ・オブ・ウォーターもPG-12指定だったことですし、こんな基準が屁の河童にもならないことは皆さんご存知の通りであります。

 ダニエルは片田舎の男性警察官。ある晩ラリッた見知らぬ男に出くわし、病院に連れていきます。元々住民の少ない土地なのでしょう、薄暗い病院の中には数名の患者と職員の姿があるばかりです。

 ダニエルが薬物中毒の男の様子を見ていると、突然一人の女医がフリークアウトして患者を殺害。他の警官の応援を要請しようとしたダニエルは、病院が覆面をつけた白装束の集団に包囲されていることに気がつくのでした。

 一団を警戒し、居合わせた人々と共に院内に閉じ籠るダニエル。そんな彼を異界の風景の幻覚と、どこからともなくポップした異形の怪物が襲います。怪物は人間を内側から別の生き物が食い破って出てきたような姿。体長は人間より一回り大きく、手当たり次第に周囲のものを襲います。

 怪物を仕留めたのは、病院の外からやって来た粗暴な親子でした。彼らは白装束の集団の包囲を抜けて入ってきたのです。そう、外の包囲は病院を外の世界から隔離するためでなく、病院の中で起きる何事かを待ち受けるためのものなのでした。

 ホラーゲームのような非人間的な禍々しさと、作品全体に雨雲のように垂れ込める殺気立った空気が記憶に残る作品です。武器のない病院の中で泥臭く怪物と戦う登場人物の姿も良い。粗の目につかない脚本とは言いませんが、期待したものは肩透かしをせずしっかり見せてくれるはず。

 本作は資金をクラウドファンディングで調達して撮った作品だそう。見た後で知りました。『カン・フューリー』と一緒ですね。次行きましょう。

2.ジュピターズ・ムーン

 ハンガリー映画だそうです。ここ数年来ハンガリー映画はめきめき評判を上げているらしい。

 シリアからハンガリーに亡命しようとした少年アリアン(頭の中に地図が浮かんでますか? ハンガリーはもう少し、上です)は、国境を越える際に警備隊員に撃たれたものの、医師業の陰で不法入国者への援助に手を染めている不良医師シュテルンの手によって一命をとりとめます。目覚めたアリアンは周囲の重力を操り、自らの体を宙に浮かせる力を得ていたのでした。

 お話の中心に据えられているのはアリアンを利用してメイクマネーを目論むシュテルンと、アリアンとの間に芽生える弱い絆、それと中東を取り巻くきな臭い社会情勢です。借金に苦しむシュテルンは、アリアンの能力を余命いくばくもない患者の前で披露し、天使のわざと言い張って金をせしめて回ります。

 画的には芸術よりであり、陰影にこだわりがうかがえます。アリアンが浮遊する場面などは『ゼロ・グラビティ』なんかを彷彿とさせますが、ひょっとすると陶酔感はこちらの方が上かも知れません。では美しいだけかと言えばそうでなく、アクションシーンがエグザイティングなのも嬉しいところ。この一作を見るだけでもハンガリー映画は侮れないというのが腑に落ちるはずです。

 個人的な意見としては、アメリカ以外で作られた映画を見る楽しみは緻密な描写といびつなパラメイター配置にあります。アメリカ産の映画にはアメリカで培われた作劇法の裏打ちがあり、具体的な傾向としては早急なテンポやBGMの使い方にそれが窺えます。諸外国の映画にはそうした作劇からの逸脱があり、米国産映画に慣らされている身からすると時に違和感を覚えたりするのですが、「これがお国柄なのだろう」と思うと楽しくもあり。近作で言うと『キングスマン』のちぐはぐな展開であるとか。次行きましょう。

3.シェイプ・オブ・ウォーター

 受賞おめでとうデル・トロ素敵な時間をありがとうデル・トロみたいな作品でした。作品とは必ずしも作者の主張ではないにせよ、デル・トロがどういう気持ちで撮ったのか気になる場面が多かったように思います。黒人差別を思わせるところとかね。キャラクターで言うとストリックランドが滅法良かったです。彼もまた「生き物」と同じく恋する怪物として完成されていました。ファンタスティックなヒューマンドラマ。俺は今完全におまえがすでに見ている体で話しているぞ。

4.霊的ボリシェヴィキ

 邦画。『霊的ボリシェヴィキ』は2018年の大推薦図書です。今回紹介した中からどれが一番見てほしいかっていったら結局これになっちゃうな。『リング』以降の直球のJホラーです。

 筋はシンプル。ある恐るべき目的のために工場に集められた6人の男女が、各々の体験した恐怖を語り合います。6つの怪談というのが実に多種多様で、日本のホラー界隈が駆け抜けてきた各時代のエッセンスを凝縮したような代物。都市伝説の身近さがあり、匿名掲示板発のネット怪談の後味の悪さがあり、むしろ「現実が怖い」という逆説的な論理があります。そして映画が進んでいくにつれ、徐々に明かされる実験の真の目的! 実験会場に迫るスターリンの霊! 参加者による共産党党歌の合唱! ピカイチの作品。

 6つの怪談の中で個人的に好きなのが、霊能者の語る「自分だけに見える不吉な何か」の話。ヤマなし、オチなし、語られるのは「自分にはこう思えた」という印象のみ。薄気味の悪さだけが木霊のように残ります。上に挙げた中ではネット怪談を思わせるお話でした。『くねくね』とかね。

5.レディ・プレイヤー1

 今年の4月は『ジュマンジ』『パシフィック・リム』『レディ・プレイヤー1』『インフィニティ・ウォー』とビッグバジェット大作が目白押しでしたが、僕は4作のうち唯一続編/続き物でない『レディ・プレイヤー1』に軍配を上げとうございます。どれも超好きなんですけど、これまで挙げてきた4作が偶然1月鑑賞作品、2月、3月、4月…nと続いたので5月も一本に絞ります。ほかの作品は各自が好きに語ることとします。

『ジュピターズ・ムーン』の項でも触れましたが、『レディ・プレイヤー1』はアメリカ産映画のど真ん中です。誠実で応援したくなる主人公、麗しいヒロイン、ダイヴァーシティ、盛っては見たものの特にどこかに着地するわけではない悪役の背景など・・・・どれも安定したクオリティでの供給がなされていて、スピルバーグ監督の熟練の技を感じさせます。

 加えてダメ押しのごとく自分が好みにはまったのは、副旋律にあたるハリデーの物語でして。社会的成功を収めてなお後悔は尽きない→なら自分の人生を模したゲームの中で鬱憤を晴らしてしまおう! という絵に描いたようなダメ人間の願望はそれ自体がひどく寂しく、また現実と空想のあわいに思いを馳せさせるものでもあります。夢を語るのでなく夢から距離を置いて眺めるどこか物悲しい視点をも内包するような作品でした。ファンタスティックなヒューマンドラマ。俺は今完全におまえがすでに見ている体で話しているぞ。

 6月ベストはまだ日にちがあるので未定。『ピーター・ラビット』だの『フロリダ・プロジェクト』だの色々見ております。

本当は見たかった映画

 自分自身本当は見たかったけどボケっとしてたり日々の生活にかまけていたら見逃した映画がいくつもあります。ベジタリアンの少女が肉を食う『RAW 少女のめざめ』(「めざめ」のひらがな表記はのインカのめざめを思わせる)であるとか、『聖なる鹿殺し』(何の映画か調べてないのでわからないが、何となく凄そうだったのでチケットを予約した)とか、『ワンダー・ストラック』(何の映画か調べてないのでわからないが、何となく良さそうだったので見ようと思った)とか。少しは調べたらどうなんだ?

 冒頭に掲げたようなワン・アイディア/低予算の映画で言うと『シェイプ・オブ・ウォーター』の公開に合わせたかのようにひっそり公開された『ゆれる人魚』なんかも気になりました。タイトルからして人魚映画でしょう。地雷を踏んだ男の苦闘を描く『アローン』(記事を書いた本日時点で公開中)なんかも気になるところ。公開中の映画『死の谷間』は終末SFだそうです。気になりますか? 気になりますよね? 劇場へ行こう!

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