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Vol.26 「自分の興味を持ったことや好きだと思ったことを書き留めるのはすごく大事」無駄づくり・藤原麻里菜さんのワークショップレポート

師走の慌ただしい気配が漂いはじめた12月の最初の週末。約8ヶ月ぶりのキヅキランドワークショップを開催しました。参加者のこどもたちと様々なキヅキをオンラインで発信し、思いがけない視点と出会うこのワークショップ。今回、こどもたちと一緒にキヅキを探してくれたのは、コンテンツクリエイター・文筆家の藤原麻里菜さんです。「無駄づくり」というコンセプトを掲げてユニークなマシーンを開発している藤原さんの考え方や思いにも触れながら進みました。

司会進行の科学コミュニケーターの本田隆行さんから、まずキヅキランドの印象を求められて「新感覚ですよね!」と藤原さん。「動画に書き込めるのもすごいですが、同じ動画を見たはずなのに全然違うキヅキがたくさんあって『ああ、こういう視点で観察したのか!』といろんな見方を発見できるのがとても面白いなと思いました」(藤原さん)

というわけで、まずはクロワッサンが焼ける過程を撮影した「ふくらむ、焼ける(早送り)」を見て、気づいたことを書き込みました。


思わずこぼれる心の声も不思議の芽もみんなそれぞれの「キヅキ」

「いいですねぇ!」と、藤原さんがまず注目したのが「おいしそうー!」という書き込み。こんがりと焼きあがる様子は、本当においしそう。心の声を書き込んでくれたんですね。語尾の「ー」の長さに気持ちの強さがにじみでています。

こりすさん「おいしそー」

また、「上の方が焦げている」や「下の方は白っぽい」など、焼けるときの色や形の変化についてたくさん書き込まれました。白いパン生地が焼けるにしたがって、意外な変化に気づいた人もいました。

マリオさん「ふくらんだあとにちぢんでる」

そんな中、藤原さんがこんなキヅキを発見。

のんのんさん「あぶらがでてる。」

「これ、なんのあぶらなんでしょうねえ?」(藤原さん)「これ、もしかしたらあぶらじゃないかも?」(本田さん)と、本田さんと藤原さんも不思議がふくらみます。

「パンは知っているけれどパンが焼ける様子はなかなか普段じっくり見ることがないですよね。今日こんなふうに『なんだろう?』と思ったら、パン屋さんにいって観察してみたり調べてみると、面白いかもしれませんよ」(本田さん)

キヅキランドには正解がありません。不思議を見つけてふくらませるのがキヅキランド。そして本田さんが言うように、キヅキランドで見つけた謎を解き明かすのに、日常生活の中でいろんな観察をしてみたり、図書館などで調べ物をしてみたりすると、みんなの!や?がもっと膨らんで、思いもよらぬ方向へと興味が広がっていくかもしれません。


無駄づくりの中に未来の可能性を見つけてみる

さて、普段は「無駄づくり」というコンセプトでユニークなマシーンを発表している藤原さんですが、普段はインターネット上で作品を公開しているので、あまり直接、感想を聞く機会がないんだそう。今回はみんなで観るために、2本の無駄づくりのムービーを用意してくれました。

「みなさんからどんなツッコミがキヅキとして書き込まれるのか、楽しみです!」(藤原さん)「作者をびっくりさせるキヅキがあるかもしれませんね!」(本田さん)まず最初に見たのは、「服がビチャビチャになるスプーン」です。


「みんなお手伝いで洗い物をするときに、スプーンに水が跳ね返って服がぬれたことはないですか? それを『水が跳ねないようにする』のではなくて『もっと水が跳ねるようにする』スプーンを私は作りました。なんでこれを作ったんだろうとか、何でできてるんだろうとか、いろいろ想像しながら見てみてください」(藤原さん)「一体どんなスプーンなんでしょうね! みんなで見て、気づいたことを書き込んでみよう」(本田さん)

ムービーが始まると、まず普通のスプーンが水を跳ねる様子が紹介されます。これでも十分服がビチャビチャになるのに、藤原さんは「ナイアガラ」「暴れ馬」「スプーン・トゥ・ヘル」というさらに水を跳ね散らかす3つのスプーンを開発し、それらが水をどんなふうにとばすかがムービーの中で紹介されます。

藤原さん開発の「服がビチャビチャになるスプーン」があまりにも激しく水を飛び散らすので、思わず「ぎょえー!」と驚きを書き込んでくれた人や、服がビチャビチャになってしまった様子に「冷たそう」という感想を書き込んでくれた人もいました。そこで、他とちょっと違うキヅキを本田さんが見つけました。

「おや、何か絵を描いてくれた人がいますね」(本田さん)
「なんの形でしょうね?」(藤原さん)

いおりさん「頭をつければ馬の形みたい」

「本当だー!」と藤原さんも笑いながらびっくり。
「このスプーンに『暴れ馬』という名前をつけた藤原さんからしてもこれは……」(本田さん)
「全然気がついてなかったですね(笑)」(藤原さん)
そうすると他にも、飛び散る水の形にキヅキを見つけた人が続々と!

あきさん「かおみたい」
トモさん「人がおどってる」

また、「食べづらそう」という書き込みもありましたが、ならば!と想像を膨らませてみんなが考えてくれたのが「何に使えるか」ということ。

こりすさん「おふろであそべそう」
cocochiさん「水やりに使えそう!」
ポルテさん「スコップにする」

スプーンだと思ってみたら、食べづらいとか洗いにくいとかあるかもしれませんけど、違うものとして使えば、役に立ちそうです。藤原さんはインタビューで無駄づくりについて「今、無駄に見えるものでも、ちょっと視点を変えて見ると将来的にはいいものや便利なものに変わるかもしれない」とおっしゃっていましたが、こどもたちのキヅキはまさに「未来の良いもの」へのヒントだったように思います。

「制作者として意外なキヅキはありましたか?」(本田さん)
「スプーンの動画でみんなが『馬に見える』『人がおどっているみたい』といったキヅキを書き込んでくれたのは全く思ってもなかった視点で、こういう着眼点で世界を見たらもっと楽しいんじゃないかなと思いました」(藤原さん)


最初の印象で終わらず「どうして?」「どうなっている?」と発想をふくらませて

2つ目の無駄づくりムービーは「絶対に目が合うメガネ」です。一体どんなものかというと……。

「私は人と目を合わせてしゃべるのがすごく苦手なんですね。それで、顔がどっちを向いていても必ず目が合うメガネというものを開発したんですが、どんなものかまず見てみてください」(藤原さん)

と、みんなに見てもらったところ、さっそくみんなから同じ感想が!

かずさん「こわいよお」

「まず直球の感想がきましたねえ。みんな正直だなあ(苦笑)」(本田さん)
「あははは、そうですよね。こわいんですけど、でも不思議じゃないですか? なんで目が合うんだろう、って」(藤原さん)
「これ、実際に作ってみる前と作ってみた後で、作り手としてご自身でなにかギャップはありました?」(本田さん)
「そう、私も『こわいな』と思いましたよ。もうちょっとかわいい感じになるんじゃないかと思ってたんですけど、意外とこわいんですよね……(笑)。なんでこわくなっちゃったのかとか、どうなってるんだろうとか、みんなにも考えてほしいなと思います」(藤原さん)

そして、ムービーの中で「絶対に目が合うメガネ」をかけていろんな方向を向いてみる藤原さんを観察しているうちに、だんだんみんな「こわい」という最初の印象から「あれ?」といろんな方向にキヅキがふくらみ始めました。

ポルテさん「メガネについてる。」
みつきさん「目のえをめがねでかくだい?」

「このみつきさんの見立てはどうなんでしょうか?」(本田さん)
「目の絵ってところは合ってるんですが、拡大はしてないんです。これはなんでこういうふうにどっちの方向を見ても目を合わせられるのかというと、目の錯覚なんです。すごく簡単な仕組みなんですよ」(藤原さん)
「じゃあ、みんなもおうちで作れるわけですね!」(本田さん)
「作れます! 目を紙にプリントして貼り付けているだけなので。……あ、材料が紙っぽいってことは、ムービーを見ながらみんなも気づいたみたいですね」(藤原さん)


ポン花さん「メガネの下から紙がでてる」

また、先ほどの「どうしてこわいのかな?」という藤原さんの問いかけについて、キヅキを提示してくれたのがこちら。なるほど、そうかも! と鋭いキヅキに納得させられました。

にゃんこさん「まばたきしないからこわい。」

最後には「ふつうのメガネじゃなくてこっちのメガネがいい人いる?」という問いかけに、キヅキを重ねる形でみんなの意見も集まりました。

こりすさん「ふつうのメガネじゃなくてコッチのメガネがいい人いる?」
ぽん花さん「私はおもしろいからこれがいいかも」
cocochiさん「わたしもつけてみたい!」


感情を保存しておく。それは大切な自分だけの財産になる。

ワークショップの最後には、参加者のみなさんからいろいろな質問が藤原さんに投げかけられるなか、本田さんが尋ねるみんなからの質問に答えていきながら、藤原さんの考えも語られました。

本田さん:アイデアはノートなどに書くんですか?
藤原さん:思いついたことはノートに書くことが多いです。ボツになったものでも、見返したときに別のアイデアがふくらんで重ねられるので
本田さん:あ、まさにキヅキランドでやっている『キヅキを重ねる』と同じことですね!
藤原さん:そうそう。今日はみんなiPadやパソコンでやってますが、私はノートにまとめています。
本田さん:アイデアってどんなときに思いつくんですか?
藤原さん:日常の中で何回も同じ景色を見たり同じ体験をするじゃないですか。例えば『絶対に目が合うメガネ』は人と会う中で何度も『私って人と目を合わせるのが苦手だなあ』と思うじゃないですか。それが繰り返されるうちに自分の中のあるゲージ(分量)を超えたときに、『じゃあ、絶対に目が合うメガネを作ればいい!』と思うわけです。
本田さん:ボツになったアイデアが復活するきっかけはなんですか?
藤原さん:やっぱり見方が変わるのが大きいですね。面白くないからボツにしたものを見返したときに、やり方を変えたら面白くなりそう!とふと気がつくんです
本田さん:あとで見返してアレンジを加えられそうとか。
藤原さん:そうですね。私、思いつきだけじゃなくて、『感情を保存しておく』ってとっても大事なことだと思うんです。小さいみなさんにも自分のすごく好きなこととかは、記録して保存しておいて欲しいと思うんです。あとで見返すと、その時の気持ちが蘇ると思うんです。すごく夢中になっていた気持ち、好きだったなあという気持ち……。大きくなって忙しくなると自分の本当に好きなものがわからなくなっちゃうこともあるんですけど、そういうときに好きだったものをまとめたノートを見返すと原点に帰れる。だから私は自分の興味を持ったこととか好きだと思ったことをノートに書き留めることをすごく大事にしています
本田さん:キヅキランドの『メモれるムービー』の仕組みもそうなんですが、そのときに思っていたこと、そのときにものを見た視点って流れていってしまいますよね。だからそのときにメモして保存しておくことは、とっても大事ですね。

これからは、忘れないようにメモするだけでなく、いつかの自分がキヅキを発見できるように、いろんなことを書き留めて「感情を保存」してみるものいいですね! 藤原さん、本田さん、ありがとうございました! 参加してくれたみなさんも、どうもありがとうございました! 今後も引き続きワークショップを開催する予定です。詳細が決まり次第お知らせしますので、ぜひ、キヅキランド公式XPeatixをフォローしてください!

なお、当日のワークショップの様子はこちらでご覧いただけます!


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