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映画『ソーシャル・ネットワーク』で学ぶ「ネットワーク分析と中心性」

この記事では,みなさんと映画をベースに社会科学の概念を学んでいきます.ぜひ,映画を見てこのノートを読み,学術的背景に目を凝らしながら楽しんでください.

今回は「バランス理論」編「社会関係資本」編に続き,映画『ソーシャル・ネットワーク』を取り上げます.映画の紹介はそちらで行っていますので,ぜひご覧になってください.


エドゥアルドへの注目

フェイスブックが拡大するにつれて,創設者であるマーク・ザッカーバーグとエドゥアルド・サベリンのふたりに注目が集まるようになります.ビル・ゲイツが講演中に,彼らは声を掛けられることになります(この映画はある意味潔くて,あのビル・ゲイツを完全な脇役,いやモブに等しい役割にしてしまいます).彼らはそこで,それぞれ彼女を手に入れることになり,特にエドゥアルドの彼女はビジネスにも参画するになります.このように,フェイスブックを構築したマークに対する注目はしばしば,エドゥアルドへも注がれることがあります.

実際,エドゥアルドがしたフェイスブックへの貢献は十分に大きいと思います.アルゴリズムや資金集めに東奔西走した彼の貢献があったからこそ,ショーン・パーカーとの対立に至ったわけですね.

このように,しばしばリーダーではなく,ナンバー2にも等しくスポットライトが当てられることがあります.

新選組といえば誰?

さて,ここで読者のみなさんに質問です.
新選組といわれて誰を思い浮かべますか?

とっさに出てきた人は誰でしょうか? リーダーである近藤勇でしょうか.美少年剣士の沖田総司でしょうか.あるいは鬼の副長,土方歳三でしょうか.

あくまで私の予想ですが,みなさんは土方歳三を思い浮かべた人が多いのではないでしょうか? 実際,土方歳三はかなりの人気人物のようです.歴史系雑誌『歴史街道』のアンケートでも,「好きな新選組隊士」1位は土方歳三です.

さて,ここで次の疑問が浮かびます.土方歳三が人気である理由はなんでしょうか? 新選組で最後まで戦ったから,鬼と言われるほどの厳しさにしびれたから,創作の中での活躍が目覚ましいから,などいろいろ考えられますが,この記事を読んだあなたは次からこう答えてください.「彼は組織の中で中心性が高いからだよ」と.

社会的ネットワークを図示する

新選組という組織を考えてみましょう.局長・近藤勇をトップとして,副長・土方歳三がおり,その下に複数の隊があって,各隊の隊長(沖田総司や斎藤一)がそれを束ねている,という構図になっています.これは典型的な軍隊的なネットワークといえるでしょう.

これを模式図的に書くと,次のようになるでしょう.○が一人の人をあらわし,それを結ぶ線が関係性の有無を示します.

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このような図をグラフといいます.数字の変化を示す棒グラフの"グラフ"とは異なるので注意してください.グラフの用語をもう少し説明すると,この○をノード,線をエッジと言います(ほかの言い方もありますが,この記事ではこの呼び方をします).そして,このグラフを分析するのをネットワーク分析といいます.

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ネットワーク分析では,さまざまな指標や分析方法がありますが,ここでは2つの指標を紹介します.一つ目は次数という指標です.次数とは,ノードから出ているエッジの数です.もう少し平たいことばでいえば,ある人が関係している人の数です.軍隊のようなネットワークは,一番偉い人(新選組では局長,現代では大隊長など)はいちいち各隊員に命令を出すことはありませんよね.だから,今回の図ではAの位置(近藤勇)から,C, D, E(斎藤一など)へ線が引かれていません.Bのサブの位置(土方歳三)を通して,命令が与えられるのです.

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次に中心性という概念を紹介します.中心性とはその名の通り「ネットワークの誰が中心か?」を表す指標です.ノードごとに数字が与えられ,それが高いほどそのノードが中心である,ということを表します.

しかし,中心性を考える場合には「何をもって中心とするか」ということを決めておかないといけません.この「中心をどう評価するか」によってさまざまな中心性指標があります.ここでは具体的に2つ紹介します.

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まず,一番単純なのは次数中心性です.最も次数が多い人,すなわち最も多くの人とつながりを持つ人が中心である,という概念です.この次数中心性は,次数がそのまま中心性の指標となります.新選組の場合,局長と各隊長がつながっているBの位置が次数が大きく,次数中心性が最大となります.

次に少し複雑な媒介中心性を紹介します.媒介中心性は,自分以外の2人を取り上げ,その2者をつなぐ経路上に自分がどの程度現れるか,ということを表します.

具体例を出しましょう.たとえばAのノードに注目します.A以外のノードは4つあり,4つのなかから2つピックアップする組み合わせは6通りあります.具体的にはB-C, B-D, B-E, C-D, C-E, D-Eです.

このなかのC-Dに注目します.このC, Dを結ぶ経路は,C-B-DというBを経由するルート以外にありませんが,このルートはAを通りません.ほかの経路も全く同じです.ですので,Aの媒介中心性は0/6となります.

一方,Bのノードに注目すると,Bの媒介中心性が高いことに気づきます.B以外のノードの組み合わせはA-C, A-D, A-E, C-D, C-E, D-Eの6通りですが,どの組み合わせをとっても,その最短経路上にはBがいます.ですのでBの媒介中心性は6/6となります.

媒介中心性が捉えるもの

媒介中心性は,情報の流れを誰が握っているか,ということを捉えているといえるかもしれません.情報はネットワーク上に流れますが,媒介中心性が高いノードには情報が通ることが多い,ということを表します.だからこそ,媒介中心性の高い人がある意味でネットワークの「中心」と言えるのです.

新選組では軍隊的な構造によって,土方歳三が情報の流れを握っていました.一方,フェイスブックでは,(少なくとも映画の中では)人付き合いに難があるマークの仲介役として,エドゥアルドが情報の流れを握っていました.だからこそ,エドゥアルドもまた,ナンバー2として注目を浴びるシーンがあったのかもしれませんね.

今回の話は以下のテキストの一部を参照しています.より深く学びたい場合にはぜひ読んでみてください.


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