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一人花見の流儀

驚くなかれ。

四月某日、私は一人で花見に出掛けた。一人で。

ワンマンライブ、ならぬ、ワンマンハナミ、である。


場所は最寄り駅の一つ隣の駅から数分歩いた場所にある、土手沿いにズラーと桜並木が続く道。

まさに圧巻というべき素晴らしい景色であった。

その道に沿って、長いようで長くない屋台が並んでいた。

私はとりあえず疲れたため、家族連れやカップルらしき人々がひしめく土手にて、絶妙に開けた空間を見つけ、そこに鎮座した。(体育座り)

なんとも言えない気分だった。なんだか次第に申し訳ない気持ちが勝り、反射的に「なんかスンマセン」と思ってしまった。

周りを見ても、家族連れやカップル、友達グループなどが大半を占め、私と同じく一人で花見をする勇者など、ほぼ皆無に等しかった。

数十分間、体育座りで脳内で「嗚呼」とか言いながらボケーっとしつつ、一時頃になったため屋台に出向き、昼飯を調達することにした。

土手沿いや屋台の前の道を縦横無尽に歩いていると、一人で来ているらしき勇者を時折見かけた。(一時的に一人で歩いていただけの可能性は否めない。)

私は初めて会うその勇者に対して、ただならぬ親近感を抱き、その勇者の御多幸を切にお祈り申し上げた所存である。

ちなみに、私は優柔不断である。この上ないほど。そのため、中々昼飯が決まらなかった。

焼きそば、お好み焼き、唐揚げ、鮎の塩焼き、チョコバナナ、大判焼き、など様々なものが乱立し、私の頭は混迷を極めた。

屋台に沿った、長いようで長くない道を三往復ぐらいした後、私は唐揚げ(500円)とチョコバナナ(300円)を入手し、再び土手で体育座りをしつつ静かに喰らった。

美味しかった。

特にチョコバナナは久方ぶりに食べたため、食べながら「おぉ、チョコバナナッ!!」と思った。そう、思ったのである。

ゴミを捨てに行った後、私は元の位置に舞い戻った。そして再び、ボケーっとしながら桜を眺め始めた。

いや、もしかしたら実は私は桜を見ていたのではなく、その手前の虚空を見つめていたのかもしれない。

桜を背景とした虚空というのも、中々粋なものである。


正直に白状するならば、一人花見が楽しかったのか楽しくなかったのかはよく分からない。

存外楽しいような気もしたし、切ない(寂しい)気分も少なからずあった。だって、一人なのだから。カップルさんが大勢いらっしゃったのだから。

それでもやはり、桜が綺麗なことには変わりない。それで私は十分満たされたのである。たぶん。



【追伸】

桜が散った今になって花見の記事を投稿するという愚行その一。

そして、「一人花見の流儀」と題しておきながら、流儀の欠片も書かれていないという愚行その二。

一体私はどうやって、この二つの愚かな過ちを受け止めてやれば良いのだろうか。

実に、愚かである。それに尽きる。

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